裏剱(5)現地到着 10月8日(日)晴れ

5:00、親不知のインターで、北アのガイドが乗車する。大きな男の人だ。空はほんのり明るくなりかけている。

閉めたカーテンの隙間から外を見ていた野遊はハッとした。
奇怪な岩壁がゴツンゴツンと、明けかかる空にシルエットを浮かびあがらせているではないか。それはまっすぐ横に並んだ全容を見せていた。
あれは、そうだ、あれこそ剱の八ツ峰だ。八ツ峰、八ツ峰だ!
おお、なんと美しい、なんと荘厳なシルエット、この町の人々は、毎日こんな岩峰を眺めて暮らしているのか、この峨峨たる岩峰を!

バスが向きを変えるたびに八ツ峰の角度が変わる。やがて左後方に小さくなっていく。夜が明ける。室堂に近づいていく。
称名の滝のバス停を過ぎ、室堂ターミナルへ。
8:00前にバスを降りて9:00集合の解散。各自朝食をとる。野遊はバナナとおにぎりを1個食べてビタミン剤を飲んだ。バスで少しずつ飲んでいたペットボトルのルイボス茶を飲み切って、駅の大きなゴミ収集箱に分別して入れ、トイレを済ませ、顔を洗い、歯を磨き登山靴に履き替え、パッキングして各自柔軟体操、集合、出発。

風邪の具合の悪さはない。網シャツと登山シャツ姿に帽子を被り、タオルを首に巻いて歩きだす。

ガイドのすぐ後を歩くのが特等席だ。女性たちはみんなそこを歩きたいので、モタモタしている野遊は、列の後方を歩くことになった。

地獄谷は噴煙をモウモウとあげていて、楽しい観光の道が、今は通行止めとなっている。この現象は東北大震災以来だそうだ。みくりヶ池を下る道にあった禁止の看板を左に見ながら、上の道を雷鳥荘に向かって登っていく。
すごい紅葉!立山は白い岩をそこここに見せながら、モールのような緑、赤、黄色に包まれている。上から、上の上から、高い高い山の上から、鮮やかな紅葉が滝のように降っている。

室堂は、野遊が記憶も煙る21歳の秋、山岳部として訪れたのが最初だ。雷鳥沢を登って剱を往復、立山三山を歩いて、室堂に降りたことがある。
あの日の紅葉と比べると、最初の印象は強烈なのか、自然も様変わりなのか、あの日のほうがすごかった気がした。