2013-03-01から1ヶ月間の記事一覧

裏剱(37)終章・ありがとう、まいたびツアー

新宿が近づいてくる。 添乗員K氏は、なんと我々に丁寧に謝罪の言葉を述べてくれた。それは昨晩、自分がみんなに心配をかけたことについてであって、他のことについては一切触れない潔さがあった。 まいたびツアーで初めて聞く、気持のこもったK氏の挨拶に、…

裏剱(36)走り去る風景

登山靴をパッキングして、小さなポシェットを手に持った。 トロッコ電車に乗って宇奈月へ。ここに見学に来る旅行者たちのように、野遊もいつか、旅行鞄を持って来ようか。 それとも登山者として、下の廊下を歩いてみようか。野遊、いつまで山に登れるだろう…

裏剱(35)怪我婦人と共に、まったり過ごす

野遊と一緒に列の最後尾に着いたのは怪我婦人だ。彼女は添乗員K氏と共に一足先に欅平に着いていたが、我々を待ってくれて、昼食を済ませていなかったのだ。 それが列の最後になってしまうなんて、なんとおっとりした優しい人なのだろう。 時間があるのでゆ…

裏剱(34)欅平駅のお蕎麦

トロッコ電車が出るまでに1時間以上あった。昨日の説明で添乗員K氏が、「欅平駅で各自昼食をとってください。駅にお蕎麦屋さんがあります。1件しかないので、ほかの登山客や、観光客とも混じるから早く並んだ方がいいですよ」と言っていた。みなさんそれを…

裏剱(33)欅平に着く

我々の行列の後ろを、昨日の女性二人組がずっとついていた。彼女たちは剱沢でも一緒だった。それは、我々が先を歩いているほうが安心感があるからだそうだ。混じれば面倒がられるはずのツアーが、他人様のお役に立ててにっこり。 欅平の駅が足下に見おろせる…

裏剱(32)奥鐘山の西壁

やがて対岸に堂々とそそり立つ「黒部の怪人」、奥鐘山の西壁が姿を現した。屏風岩と双璧をなすと言われる大岩壁だ。思わず目を奪われた。 黒部にはほかにも丸山東壁があり、こちらは「黒部の巨人」と呼ばれている。それと黒部別山大タテガビン南東壁「黒部の…

裏剱(31)水平歩道

ひと登りしたところで休憩をとり、雨具を脱ぐ。このまま降り続いたなら、道は難儀したことだろう。天候に感謝だ。いよいよ水平歩道に入って行く。黒部峡谷を右に見おろして、どこまでも人工道を歩き続ける。道幅は十分だが、片面は岩壁で一方が切れ墜ちてい…

裏剱(30)阿曽原小屋出発の朝

4時半に添乗員K氏と顧客1名は先立ちし、我々は5時半の出発だ。朝食はお弁当で、途中で時間をとることになっていたのだが、女性たちは出かける前にすませておきたいと意見が一致して、4時に起きて準備を始め、5時前には布団をたたんだ部屋で、各自お弁当を喫…

裏剱(29)衝突?

今日、添乗員K氏は夕食に出てこなかった。酔いつぶれて寝ているとかいうことだった。実際はそうではなくて、何か気分を害して出てこないのではないかと言う人もいた。野遊はその場を見ていないのでここは不明だ。 夜、ガイドとK氏の口論が筒抜けだった。内…

裏剱(28)話し合う3

K氏は、顧客が何かモタモタしていると、そっと近寄って助言するなど、申し訳ないくらいに丁寧で親切だった。顧客がガイドの言葉に傷つかないように気遣う様子は、何も言わなくとも、我々に自然と伝わってきていたのだ。Hさんも絡んでいたかもしれないことに…

裏剱(27)話し合う 2

その折、ツアー客のレベルが落ちていることが話題にあがったが、顧客に罪はない。顧客のレベルを落としているのはツアー会社なのだ。レベルを上げたければ即、実行できる。厳選すればいい。けれど皆さんがどんどん成長して、個人山行を始めるようになったな…

裏剱(26)話し合う 1

夕食前に添乗員Hさんが女性部屋で、明日は1名(怪我婦人)、添乗員K氏と二人で1時間早く出発すると告げた。 それは欅平のトロッコ列車の時間が決まっているので、全員間に合うように配慮された結果とのことで、了解した。その折、どちらからともなく、ガイド…

裏剱(25)くつろぎタイム

やがて男性たちが温泉から戻ってくると、また女性の時間になり、添乗員Hさんが降りて行った。彼女は最初の時間帯に、忙しくて入浴できなかったのだろう。野遊は、屋根つきスペースでビールなどを飲みながら会話を楽しんでいる女性たちに交じろうか、温泉で写…

裏剱(24)持参の食料の話

ところで野遊は空腹だった。持参してきた行動食はソイジョイや玄米ブラン、ドライフルーツとキャンディ類だ。 仙人池ヒュッテのお昼のお弁当の、特大トロロ巻おにぎりが1個残っているので、あまり気は進まないがそれを少し食べよう、ゴミになっちゃうしと思…

裏剱(23)阿曽原の露天風呂

小屋の出入り口には、屋根つきのちょっとしたスペースがあり、ベンチに座ってくつろげる。 外にもくつろぎスペースがある。温泉タイムは女性が14時から1時間で、もう行かなくてはならない。荷物を置いて、靴を履いて降りて行った。すぐ下がテンバで、さらに…

裏剱(22)「高熱隧道」

この仙人湯小屋に登山者が立ち寄りやすいように、新しい登山道が造られて間もないそうで、以前は、もっと近い便利な登山道があったそうだ。北アの営業風景とでも言おうか。(と、これは山慣れガイドの言葉だ。山小屋側としてはあれこれ理由を述べてはいるよ…

裏剱(21)休憩の仙人湯小屋にて

仙人湯小屋に着き、ささやかなスペースでしばし休憩。トイレの用がある人は小屋のほうに降りて行って使った。初日の怪我婦人はガイドとアンザイレンしていて、それを解いてトイレに立ったが、出発時間になっても帰ってくるのが少し遅れて、ガイドが「何やっ…

裏剱(20)剱をふり返りつつ

【3日目】10月10日(火)晴れ 阿曽原に向かう。 ヒュッテからの道はしばらく木道で、すぐに岩道を下り始める。剱の景観とお別れだ。ありがとう、さようなら、さようなら。野遊は感傷的なタイプなのだろうか。入山以来、ずっと見あげてきた剱を後方にして、…