2014-01-01から1年間の記事一覧

Sureshの夏 30 終章 秋の約束

3週間はすぐに過ぎてしまった。鎌倉鶴岡八幡宮周辺の散策。ご近所の、ちいさな工場見学。スポーツクラブにズンバを踊りに行った。江の島水族館でイルカショー見学。江の島の海や近くのプールで水遊び(シュレスは泳げない)。河口湖でカチカチ山をロープウェ…

シュレスの夏 29 学費をプレゼントする

シュレスはネパールに帰ったら、マレーシアに出稼ぎに行くと言ったり、トレッキングガイドになると言ったり、自分でも決めかねているようだった。トレッキングは、いい収入になるので、シーズンオフ(6月〜9月)はほかの仕事もなく無収入で暮らすとしても、…

Sureshの夏 28 おみやげ

甲斐駒から帰った次の日、8月24日は、シュレスの我が家にいる最終日だ。明日の夜、成田を発つ。 今日はどこにも出かけない。洗濯物をたたんだり、荷物の点検などに結構忙しい。 シュレスはこの3月、野遊が参加した西遊旅行のツアーで一緒だったガイドとコッ…

シュレスの夏 27 甲斐駒(5)仙流荘で

野遊がもっと旅行や遊行が得意なタイプだったなら、街まで出ていって近場の名湯に案内して、その土地のお料理や地域の名産を楽しんだり、次の日は観光して帰途についただろう。でも野遊は不器用に、麓に2泊して明日は来た通りに帰る。仙流荘についたら、まず…

Sureshの夏 26 甲斐駒 (4)木の祠の幼鳥

双子山経由で北沢峠に下る。シュレスは野遊の後ろを歩く。突然シュレスが野遊を呼びとめた。「ERIKOサン!」と呼んだ。ふりむくと、木の洞を覗きこんでいる。ちょっとの距離だけどそこまで登り返すのが億劫で、うう〜んと思ったがシュレスが動かないので、よ…

シュレスの夏 25 甲斐駒(3) 白い頂上に立つ

2014年8月22日(金) 晴天の甲斐駒、初めてバス使用、北沢峠からの安易なピストン。でもやっぱりうれしい。林道を左に折れてしばらく登ると、なつかしい仙水峠。やがて、さすが甲斐駒。山の神様のオーラを浴びたようにシュレスは元気になった。 三点確保もま…

Sureshの夏 24 甲斐駒(2)靴騒動

初日はふもとに泊まるだけなので、ゆっくり出発する。玄関でシュレスは、持参してきた青いスニーカーを履いた。大分履いてきたスニーカーという感じだった。それでトレッキングシューズは置いて行こうとした。野遊はトレッキングシューズを履くように言った…

シュレスの夏 22 甲斐駒(1)

シュレスが帰国する数日前、ようやく山の天候に晴間が出た。行くつもりだった北アの朝日雪倉岳方面は全滅状態だったが、山梨に晴れ間が広がったのだ。急きょ予定変更して、富士山か南アルプスを狙うことにした。シュレスの今後の話の種に、標高日本一の富士…

Sureshの夏 21 前進

ある日、野遊の二番目の姉が我が家に来て、シュレスに日本語を教えた。これでシュレスの日本語の先生はゴスケ、野遊、姉と3人になる。教え方はそれぞれなのだが、英語の教師だったこの姉は、人にものを教えるのが好きで、シュレスがその気になれば、いくらで…

シュレスの夏 20 日本語の勉強

シュレスは、最初は日本語を習得できればいいと思っていたようだが、やってみたら、今までの言語よりも難しいと感じたらしく、途中で腰が砕けていた。シュレスの日常用語はライ語で、学校でネパール語を習得し、自由に操れるほどになっている。次が英語のよ…

シュレスの夏 19 朝日、雪倉岳

シュレスは野遊に電話を貸してと言うので子機を貸すと、夜、長電話をしている。話し終わって、野遊の部屋の親機のライトが消えると、またほかの誰かにかけていて、ずっとライトがついているのだが、最初のうちはシュレスも知らせたいところがいろいろあるの…

Sureshの夏 18 果物いっぱいの朝食

この夏は8月の上旬から大型の台風が接近して、ゆっくり進んでいたため、なかなか晴れなかった。ようやく太陽がのぞいた日が来てもすぐに曇って、夏山らしい登山日和がないままに過ぎていった。シュレスが帰りたいと言いだしたころから野遊は心痛のあまり具合…

シュレスの夏 17 光genji のDVDを観る

次の日、L氏に国際電話を入れたが、彼はたいてい忙しくて電話に出られない。留守電ではないのでメッセージは入れられない。何度かかけたのだけど話ができないまま1日が過ぎた。シュレスは「Call him?(電話した?)」と、たびたび催促してくるし、野遊、本当…

Sureshの夏 16 軟禁か

収入が得られないまま滞在するのはシュレスにとって、ただの無駄な期間と思えるらしい。「でも、いろんなものを見て行ってね、そして日本を内部から知れば、トレッキングで日本人のガイドをやったとき、ただ日本語を話せますというのとは違ってくると思うわ…

シュレスの夏 15 仕事がしたいと言う

シュレスが野遊に訴えた。家事ではなくて、何かバイトを紹介してほしいと。ここで普通に暮らす意義をシュレスは知らない。収入につながらなくては意味がないと思っているのだった。日本に来るとき、書類にサインしたはずなのに、読まなかったのかな。もし観…

Sureshの夏 14 ぞうきんがけを知らない?

もっと何かやらせてとシュレスが言うので、まるで神様みたいに扱っていた野遊も、用事を頼んだ方がいいのだなと思った。彼に開放した居間と、それに続く玄関からの廊下を、ぞうきん掛けしてねと言った。その周囲の、階段とか、洗面所とか、それからダイニン…

シュレスの夏 13 お手伝いをする子

野遊が洗い物をしていたら、シュレスが横に立ち、自分が洗うと言った。いつもやっているのだと言う。これはトレッキングのキッチンボーイとしてなのか、家でも食器を洗うのだと言っているのかどちらかな。野遊を押しのけるようにして流し台に立ち、スポンジ…

Sureshの夏 12 大事な宝物

夕食の後、洗い物を済ませてから、しばらくシュレスと日本語の勉強をした。ひらがなとカタカナの一覧表を、先にシュレスに郵送しておいたが、彼はちゃんとそれを持ってきていた。書き順ごとに色を変えてあいおえおからわおんまで野遊が手書きで作成したもの…

シュレスの夏 11 お箸に挑戦

夕食はゴスケはお刺身が好きでマグロの切り身をひとさく、先ほどお買いものしたときに買ってきている。野遊はシュレスが普段食べている延長線上のものを考えていた。いきなり違う国に来て食べ物もがらりと違ったら過ごしづらいのではないかと思ったのだ。 で…

Sureshの夏 10 初めて見る海

午前11時ころ藤沢に着く予定だったのが13時ころになったので、急いで帰ってもお昼を大きく過ぎていた。シュレスはお腹がすいたことだろう。帰ってすぐに食事ができるように、スパゲッティを下ごしらえしておいた。ガーリックとチーズの利いたカルボナーラよ…

シュレスの夏 9 再会

空港バスが入ってきた。止まった。運転手さんが降りてきて、下のボックスを開く。乗客が降りてきて、運転手さんからバッグを出してもらっている。その中にシュレスの後ろ姿はすぐに見つかった。名を呼ぶ前にシュレスがふり返って目が合った。野遊は走ってい…

Sureshの夏 8 もうすぐ会える

送付した書類の中に、色違いで大きく順番NO,を入れたメモ紙を同封しておいた。 1、日本に着いたら。(メモ1・カウンターのスタッフにこれを見せる。「藤沢行の高速バスの場所を教えてください」。なにかあったらここへと野遊のケータイNO,を添える) 2、バ…

シュレスの夏 7 3週間のホームステイ、日程が決まる

鎌倉の夏祭りや花火大会をシュレスに見せてあげたいと思っていた野遊だったが、7月は牛歩のごとくの進展で、いったいいつ彼が日本に来るのだろう、こんな進捗状況のままでは、夏が終わってしまうと心配だった。けれど実はお祭りや花火大会は、この滞在にお花…

Sureshの夏 6 行きたい時が行ける時

でも、この夏だけ日本観光体験ができたとしても、その後マレーシアに出稼ぎに行くシュレスを止めることはできないだろう。彼はいずれ、何年という年月の契約の元に国を出て働くつもりなのだ。ほかに何かいい方法はないのかって、ないのだろう。野遊に何かで…

シュレスの夏 5 送金

野遊は、L氏が「700ドルくらいでエアチケットが入手できることがあるので〜」と言ったのを聞いた後、Sureshに1000ドル(約10万円)送金していた。 これでエアチケット代をL氏に支払ってください、残金はあなたの費用に充ててくださいと。 それが920ドルだっ…

Sureshの夏 4 エアチケット

シュレスが日本に来て充分過ごして帰国するまでの宿泊、食事、旅行などをすべて野遊側が賄えば、これが一般的な常識のご招待に値すると思っていたが、だんだんそうではないことがわかっていった。シュレスは足賃を支払う気はないのだった。それは自分から日…

シュレスの夏 3 時々白紙に戻したい気持になった

日ネ親交協会の会長さんへのメール【この夏にホームステイする予定のSuresh(19歳)は、 L(実名伏せ)さんの助言のお陰さまで、ビザ取得の手続きを進めています。 でもネパリってのんきなのでしょうかね・・・ たとえば書類をそろえたりする手順が…

Sureshの夏 2 日本に来る?

シュレスのお姉さんは出稼ぎを続けていたが病を得て、帰国してからなくなってしまったそうだ。それが昨年のこと。シュレスは今度は自分がシンガポールに出稼ぎに行くことになった。下には弟と妹がいて、彼らの学校の費用も賄わなくてはならないとか。ネパー…

シュレスの夏 1 国際電話

初夏のある日。 どなたからでしょうか、国際電話なんて。電話の向こうの声は、静かな声だ。男性。 あなたは森木エリ子かと聞いている。(それがモリコエリコと言っていた) 自分はシュレス・ライだと名乗っている。もし野遊がそれでも反応しなかったなら、相…

ヒマラヤ山行(50)最終章 スニーカーボーイ 「ごめんねゾッキョ」

「Be gone」というBGMを浴びながら、ピシピシと音を立てるような寒いルクラの飛行場の窓から、黄土色の道を見つめながら、野遊が長い間まさぐっていたのは、このスニーカーボーイの面影だ。もちろん。いるべくもない。けれども。いる かもしれなか…