裏剱(5)車中泊の過酷な時間

野遊はこの時間が最も苦手だ。得手な人はいないだろうけど。
まず眠れないし狭い。寒すぎたり暑すぎたりする。頭は冴え切って、体は痛くなってくる。こんなときに少しでも眠れる人をうらやましく思う。
ツアー参加当初、夜行日帰り登山で一睡もできないまま、登れなかったらどうしようと悶々としてしまい、車中のムッとするような人いきれに気持悪くなり、不慣れだった野遊は、不覚にもバス酔いした経験がある。
あの日は終日辛かった。この不安感に包まれもする。

なるべく体を自由にしようと、野遊はMy草履を履き、15分の休憩に、外で体を伸ばしてはまた乗車、マスクをして、冷たい窓ガラスに額を寄せて、過酷な時間を過ごす。

参加者たちは、よくこの時間帯を粛々と過ごせるものだと感心している野遊だ。これも実力の内だろう、ツアー登山は、この第一難関を突破してこそなのだ。

添乗員はいつもこれを体験しているわけで、しかも翌日は元気でいなければならない。体を壊さないだろうか心配だ。

バスは窓外に暗い日本海を映し出してひた走っていた。