十勝岳 6 エールを飛ばす

わりとなだらかな道をゆっくり行く。十勝岳の頂上が遥か遠い高みに見えている。その手前の山腹から、4本の白い噴煙が縦に吹き上がっている。あんな高いところまで登って行くのかあ、遠いなあと思った。

トレイルランが、バラバラと上から駆け下りてくる。そのたびに我々は道をあけてあげる。「7年後に向けて訓練中かな(オリンピック)」と、言い合った。後ろからもトレランがやってくるので、そのたびにK氏が前に声を飛ばす。
「若いお姉さんが来ますので道をあけて〜」「若いお兄さんがきまぁす〜」
いちいち「若い」とつけるので、なんとなくみんながクスクス笑う。

添乗員K氏はどことなく陽気で嬉しそうだった。そして「実はこの十勝岳百名山の百座になるんです」と言った。それはめでたい!

十勝岳避難小屋で休憩を取り、また元気に登っていくと、道はだんだん傾斜を増し、広い山腹をゴロゴロ登って行った。見あげるとそこまでかなという景色があるのだが、そこに行くと、また登りが伸びている。

ガイドさんは歩調を一定に保ってゆるゆると歩を運び続ける。ふうふう・・・ここが最もきつい個所だろう。

と、そのときK氏が「ファイトー!」と檄を飛ばした。ツアーで初めてだ。K氏にしてみれば、今ここが踏ん張り時、そしていよいよ百座目に立つのだ。思わず声も出したい心境だったのではないか。

K氏の檄に男性たちが「おお〜」と小さく応えた。
女性たちは無言だったので野遊がK氏のエールに応じた。
「昔の若いお姉さんファイト〜!」すると女性たちからどっと笑い声があがり、野遊はすっかりうれしくなって、「昔の青年方もファイト〜!!」と続けた。野遊の声はすがすがしく十勝岳の上のほうに飛んだ。そりゃ、この声は演劇で叩きあげた野遊の本場ですから(#^.^#)。

疲れ気味の集団に活気が出た。野遊の体から活力が湧いてきて、今までよいこらしょ、もうすぐだと登っていたのが、しっかりした足取りになった。たった2声3声なのに、腹から声を出すって、こんなに効果的なことなのだと改めて思った。ワンゲル部などで「声出していこう〜!」というのも理由があるのだな。

やがて見晴らし抜群の稜線に出た。ここから十勝岳の頂上までずっと、きれいな道が見渡せた。