鎌倉駅前の交差点物語(17)知らせ到来の日

電話が鳴った。自分は平日、家をあけていることを知って、千一が深夜にかけてきたものだった。
「あのねぇ千さん、午前2時ですよ〜」
彼は音声キーボードで答える。「スミマセンデシタ」。

この一言で、自分は解釈する。千一は言いたいのだ。でもいっぱいしゃべるのは時間かかかりすぎるので、一言で謝ってしまうけど、本当は

「あんたねえ〜、たいていいないでしょ、深夜なら起きているって言ったでしょ」
「だからねぇ千さん、起きているのは、切羽詰った用事があるからでしょ。ただ暇で、こんな深夜に起きているかって。忙しいんですよ、起きているときは」


そんなふうに言ってしまったら、彼はまた「すみません」って言うんだ。さしてそう思っていなくとも、それが彼の処世術なんだ。細かい言葉のやり取りのできない、それが彼の処世術なんだ。

千一に、そう言わせてはならないよね、それって不毛だから。で、作業を中断、ふうと息をついて、このことに時間を解放した。(短くて1時間、長くて3時間)

「コウサテン ノ ケン カイケツ シマシタ」
神奈川県警から回答があり、鎌倉駅前交差点の歩行者、青の時間が、五秒、延長されたと。

うわぁよかったね千一さん。声弾ませて会話した深夜の思い出。

おめでとうって言葉、こういうときに言うんだよね、選挙に当選したときよりも、こういうささやかな、たったひとつの成果に。

「ソウダヨネ ウレシイナ シカイギイン ッテ オモシロイヨネ」
「アノ ゴフジン ニモ シラセテ オイテ クダサイネ」
「アリガトウ」

なんて言ってた。

電話切ったら、午前3時でした。んじゃ一人で乾杯しよう。静かに。あれ、静かじゃないや。大声で叫んでいた。「やったあーっ」って。