ミヤマキリシマ山行(15)ブラボー平治岳

大戸越は、一面のミヤマキリシマ。ガスの合間に浮かびあがる緋色はなんとも美しい。足元からピンクの滝が流れるように続いている。それがガスで見渡せないのだが、動くガスに添うように、あそこ、ここと緋色が浮かびあがり、うっとりしてしばし動けないほどだった。

雨は止まず、道は悪くなる一方だが、Mはいとも自然な感じで前進。あたふたとあとを追う。

ここから平治岳へは往復になる。平治岳へは、登りと下りと二本の道があるそうだ。ラッシュになった場合は、登山者がそのルールを守って歩くのだが、今日はどちらを通っても大丈夫な感じ。でも登りの道を使いましょうやということで、どうやら新しくつけられたばかりのような登り道を行ったのだが、やや急で、掴まる石などもなく、どうやって歩いたらいいのと困るほどのズルズル道になっていった。すごく神経を使う。

途中で、さすがのMも「どうしようもないから、ここらで戻ろうか」と言った。するとSが「そうだねぇ」とか言いながら、試しにちょっと、という感じで先頭を歩きだした。この部分だけ、S、野遊、Mの順でしばらく歩いた。

やがてもう1本の道と合流して、それが元々の登山路らしく、少し歩きやすくなった。彼らはあまりおしゃべりしないけれど、気が通じている。結局どこもはしょらずに我々は平治岳の頂上に立った。

そのときはもう、ミヤマキリシマの大群生に囲まれてやってきたので、野遊はなんだかミヤマキリシマに酔ったみたいな不思議な感覚の中にいた。すごい異次元体験だ。何か言おうにも、ただ「わあ・・・きれい〜」と繰り返すばかりで、ほかの言葉が出ないのだ。

頂上で、坊ガツルから登ってきた団体に出会った。彼らはそれこそ下半身泥だらけで、Mは「あ〜あ〜そんなに汚して」と、親しい知り合いのようにのんびり語りかけている。野遊の下半身も泥だらけ。歩きながら、靴の内側が膝下の内側に当たってしまうのだ。

MもSも、ズボンを汚していなかった。あんなにドロドロの道を登ってきたというのに。立派な人たちだと、野遊は感心した。

団体さんと写真を撮り合って別れた。