ミヤマキリシマ山行(24)西千里浜で、トレイルランになる

久住分れから牧の戸峠方面へ行く。朝方登ってきた北千里浜を右に見おろしながら。しばし行くときれいなしっかりした避難小屋があった。大きなトイレもあった。さらにまっすぐ登って行くと、20分も登っただろうか、ちょっとピークに出て、そこから進行方向に向かってなだらかに下って行けばいいのだが、野遊は向かって左側に道を探してしまった。道はなく、でも野遊はどうしてもそちらに行こうとしてうろうろしてしまった。

牧の戸峠ではなく、赤川に下るのだから、扇ゲ鼻に出なくてはならず、それには左に行く道があると思い込んでしまっていたのだ。実はその通りなのだが、まだまだ牧の戸方面に進んでからのことなのだ。地図を片手にひとりですったもんだして、当たり前についているまっすぐの道に、ようやく下って行った。下りながらこれでいいのだとわかってくる。ほんっとにヘンなことでモタツクものだ、我ながら情けない。

ちょっと岩ゴロを下ると、広い広い西千里浜が始まった。この西千里浜の長いこと!先ほどの久住めぐりが案外短時間だったので(それは時計を見ながら緊張していたこともあって)、このたびは「あとは下るのみ」と、思わず気を抜いたのだろう。行けども行けども扇ゲ鼻の道標が出てこない。道標はどれも、牧の戸峠に向かう道で正解ですというものばかり。え、自分はこのまま牧の戸に行ってしまうのかしらと、またまた不安になってくる。

右も左も太陽に輝くミヤマキリシマのフェスティバルで、「わぁ〜きれい〜」と歓声をあげつつも不安は胸を圧してくる。そしたら向こうから3人の登山者がのしのしとやってくる姿が見えた。足を速める。近づく。大きなザックを背負った頼もしそうな若者たちだった。もう声が届くくらいのところから駆けだしてしまった。

「すみません、教えてください。わたしは扇ゲ鼻に行きたいのですが、この道でいいのでしょうか」と聞くと、若者は「え?扇ゲ鼻?」と、怪訝な表情をする。わぁやっぱり違う道を歩いているのだろうかとドッキドキ。
「この道を行ったら、牧の戸峠ですよね」と野遊が聞くと、若者「そうですよ」と答える。扇ゲ鼻は知らないらしい。わぁんどうしよう!

野遊は手に持っていた地図を見せ、「ここはここのどこですか。自分がどこにいるかわからない」と言った。
若者は明るく笑い、地図をのぞき込んで「ここですよ」と指さしてくれた。

ここは西千里浜の真っ只中だった。

どっと安堵してお礼を言って別れた。いいのだこの道で。今来たもう半分くらい歩くのだ。その先で、道が別れているはずだ。西千里浜が広いのだ。自分がのろいのだ。のろのろしていると赤川に着く時間が遅くなる。人気のない夕方の下山道、熊に出会ったら大変なので、もっと一生懸命歩かなくては。野遊はにわかトレイルランになった。緑と緋色の、だんだら海を突っ走れ!