朝日連峰縦走(6)泡滝ダム登山口

鶴岡駅は大きな駅だ。7時40分に大鳥行きの路線バスの始発が出る。

登山ブログで、「今から山に入って自給自足になるので、鶴岡駅前のホテルでゆっくり朝食を摂る」という記事があり、野遊も優雅に過ごしたいと思ったが、ホテルはいくつもあって、外来者の朝食OKかどうか中に入って聞くのは勇気がいるし、やめた。

駅つきのコンビニで昼食夕食のお弁当を買い、店員さんに「この時間に開いているのは、道路の向こうのミスタードーナツです」と教えられ、道路を渡って行った。

あまり好きではないドーナツを食べ、小さなカップのコーヒーを大事に少しずつ飲み、さめた一口を飲み干してから、始発バスの時間少し前に立ちあがると、店員さんが
「コーヒーのお代わりはよろしかったでしょうか」と過去形?で言う。
もう〜今ごろ(>_<)、と思ったが「ご馳走さまでした」とニコニコ答えてお店を出た。
バスに乗った。乗客はまばらで、駅ごとに多少の乗り降りがあり、だんだん減っていき、道がほとんど山道になってきたころ、車内は野遊と、登山者風おじさんと、運転手さんだけになっていた。
終点の一つ手前で登山者風おじさんが降り、運転手さんが野遊を見ているので、聞くと、ここでいいらしい。駅名はなんだったっけ(~_~)。
目の前に朝日屋旅館があり、ここでもう一度切符を買うのだ。

ここからは会員バスが出ている。切符を買った時点で会員ということになるらしい。
路線バスの通るような道路ではないので、会員バスと銘打つのだろう。

中型バスが来た。乗り込むと、乗客はさっきのおじさんと野遊だけ。
「わぁ、ふたりだけだぁ」と言うと、おじさん「ふたりだけだぁ」とオウム返しした。無口な人らしく、声を聞いたのはこれきりだった。発車オーライ。泡滝ダム登山口へ!

会員バスは、あれぇと言うようなガードもない狭い道をドッドコ走行。
運転手さんすごい。あがるあがる高度があがる。
景色は流れる三面鏡。濃い緑、深い緑、明るい緑、遠い、近い緑。百色の緑が重なる。

バスが止まったところが泡滝口終点(9:35)で、運転手さんがちょっと休憩しながら、「これからどこまで行くの?」「大鳥池小屋です」そしてバスは戻って行った。

野遊はそれから忙しかった。まず行動用の服に着替えた。編みシャツに長袖シャツ。
靴下をはいて登山靴をはく。そしてばっちりパッキング。さっきの無口登山者は、すでにずっと向こうの林道を歩いている。地図を見ながら、野遊もその方向に歩きだした。

5分も行くと、後ろからマイカーが追い抜いた。さらに行くと、また後ろから車が2台、追い抜いて行った。これはタクシーだった。中の人がこちらをものすごく見ていた。
600メートルも行っただろうか、林道の途中で、先ほどの車が止まっていた。先のマイカーは二人連れで、あとの2台のタクシーはツアー客だった(と、あとで知った)。
右手に、はっきりした道標があり、登山道が始まっていた。了解! 

早く登山口に到着した彼らを先に行かせようかとも思ったが、何やら準備しているようなので、野遊は挨拶をしてそのまま登って行った。

安堵と共に歩を進み入れた登山道は、陣太鼓も鳴らない。
静かにナチュラルに、野遊の朝日連峰登山が開始された。10時30分。