朝日連峰縦走(14)狐穴小屋にて

狐穴小屋は大鳥池小屋よりもずっとこじんまりとした避難小屋だ。戸を開けると、すぐ右手に、昔の農家のような家庭的な感じのトイレどころがあった。だれもいないので外に出て、そばの水場で休んだ。靴を脱ぎ、素足になって腰かけ、水を補給した。お昼はソイジョイ、乾燥ビーンズ、プルーン。チューブの梅ハチミツは、ここにくる途中飲み飲みしながら歩いたのでもうない。熱いコーヒーが欲しかったが、燃料を使う手間が億劫に感じられ、アイスコーヒーにした。

ここで宿泊する予定だったが、時間があるので、もう一足進もうと決めた。それは大鳥池小屋の藤井氏が「明日は荒れるだろう」と言ったからでもある。

ゆっくりしてからパッキングをしなおし、靴紐を締めて13:00、立ちあがると、例のツアー組が追いついてきた。ここで宿泊する予定だと言う。

クライアントたちは皆、年配の女性だった。けれど若いころ登山経験を積んでいるらしく、ここから見える天狗角力取山の話などをしてくれた。縦断だけなく横断山行もいいですよと教えてくれた。野遊は、いつか天狗角力取山から登ってみたいと思った。

彼女たちはちょっと言いわけめいて、自分たちはガイドつきで登るけど昔は云々と。そして野遊が竜門に行くと知ると、普通はそうでしょうね、あなたは若いから云々と。野遊、若くないがや。

こんなダミーなガイドでもいてもらいたい思い込みはなんだ。彼女たちの自主性のなさはなんだ。自力登山できるはずの人たちなのに、もったいないことだ。

ツアー登山は、たとえば天気や調子によって行程を一つ伸ばして、ということはしないから、予定通り狐穴小屋で宿泊するのだが、クライアントたちは、ゆっくり歩いて13時にここに到着したのだから、行ける人たちだろう。明日の天気を思うと、竜までの稜線を雨の中歩くのは大変だろうな、足を伸ばしたほうがいいのになと思った。まっ、一緒になって、またあのガイド2名に騒がれたらイヤだけど。

挨拶して別れた。天狗の道への立ち話が長引いて、13:30出発。