朝日連峰縦走(15)北寒江山からの雄大な美しい登山路で

歩きだすと、ゆるく増していく高度と共に展望が開けてきた(^.^)

三方境にたたずんで天狗角力取山への道筋を見渡す。心が奪われて、しばし見とれた。

左のはるか向こうに見える、藍色と白の段だら模様の、姿のいい山は月山だ。そのさらに向こうに浮かぶのは鳥海山だろう。足元のお花畑にも満たされる。暑いけれど、野遊のいっぱい休んだ体は、それに堪えられるようになっていた。雲は多かったが、絶景を堪能しながら歩いた。北寒江山通過。

それにしても大きい。行けども行けどもほんのちょっとしか稼いでいない気がしてくる。目の前にそびえる寒江山を見あげて、一気にあそこに飛び乗れないものかなぁと思ったりした。歩き始めは元気がよかったが、やはり疲れているのだろう。

寒江山から、二人連れが降りてきた。すれ違いは以東岳以来だ。近づいていくと、彼らはずいぶん距離があるのに立ち止まって待っていてくれた。これは申し訳ないな、と思ったが、そういうとき、足を速める場合と、キツゲにゆっくり登る場合とがあるが、後者にさせていただいた。この時間降りてくれば狐穴小屋だろうから、彼らのほうがゆとりがあると思ったのだ。

男女だった。荷物は荷揚げ物のようだ。野遊を見おろす男の人の表情に、広やかな、ただならぬものを感じた。狐穴小屋の番人だと、野遊は直感した。さっき留守だったので、帰って行くのだろう。野遊は自分から声をかけた。

「こんにちは、ありがとうございます」と、待っていてくれたお礼を言い、
「あとどのくらい歩いたら竜の小屋に着くでしょうか」と聞いた。
「この上に登ったら、もう一つ越して、すぐですよ」
と、その人は答えた。互いにバカらしいような会話だねぇ・・・(^.^)
でもそれでいいんだ、それがいいんだ、野遊はホッとした。
「どこからですか」と聞かれ、
「大鳥です」と答えたら、ちょっとヘンな顔をして
「え」と聞き返すので、
大鳥池小屋です」と答えた。
「ほう、それは長かったですね」
と、その人は言い、目に優しい光をたたえながら、
「竜門からどこに行くのですか」
朝日岳に登って下山する予定です」
「このピークを超えて、もう一つ越したら、ゆるく登ったり降りたりしているうちに竜門小屋に着きますよ」
と、さっきの言葉をもう少し細かくして言ってくれた。あまり変らんが。
「あれも登るのですか」と前方を指さすと、
「あれは竜門山だから今日は登らないよ。その手前だよ」
「もう疲れて歩きたくないような」と甘えると、
「あとそうだな、1時間くらいかな」と言い、女性も一緒に
「がんばってください」と言ってくれた。
「がんばります」と答えて別れた。

小屋番さんですねと聞かなかった。でも直感が甘えてしまった^_^;

登りながらふり返ると、二人はずっと遠くになっていた。もう一度ふり返ると、小さな点になっていた。速いなぁ。

あとで竜の小屋の番人さんに聞いたことだが、彼らはやはり狐穴小屋の番人で、女性は今後この小屋の番人になる可能性がある人だそうだ。「彼女は狐穴を狙ってる」という表現で、遠藤氏(竜の番人)が言っていた。夏場だけ番人が入る朝日の避難小屋は、女性も進出しつつあるようだ。