朝日連峰縦走(19)停滞・・・竜門山小屋にて

4時過ぎ、気配に目ざめた。雨の音。頭上の窓をのぞいても、何も見えない。こんな中歩くのやめた。皆さんせっせと煮炊きを始める。野遊はインナーの上に座ったまま動かない。横たわっていたかったが、就寝していると思われたら気になるだろうから起きていた。

ひと時騒がしかった。7時には静かになった。階下に行くと、まだ出かけない人が、居場所に陣取った遠藤氏と雑談していた。野遊は二階を掃除することにした。箒で掃くと、細かいゴミと砂と羽毛がごっそり集まった。

やがて遠藤氏と二人だけになった。遠藤氏がコーヒーと紅茶とどちらがいいですかと聞くので、紅茶と答えた。ティーバックのゴミを出したくなくて持ってこなかったので嬉しかった。居場所に座らせていただき、遠藤氏のマグカップを持ってしまい、「こっち」と紙コップを示されて恥ずかしかった・・・(ーー;)

遠藤氏にチョゴリ登攀の話を聞いた。彼は話しているうちにエヴェレストの話になっていく。野遊はチョゴリの話を聞きたいのにね。やっぱり登頂した話のほうにいってしまうのだろう。先月鎌倉在住の荒井氏から「最年長者のエヴェレスト登頂談」を、九重連山の帰りに電車内でお聞きしたが、ガイド登山でない遠藤氏の話は、やはり迫力があった。荒井氏は北東稜、遠藤氏は南東稜からのアタックだ。どちらももっともっとお聞きしたい、素晴らしいものだった。

野遊は遠藤氏と二人だけで話ができて、今にも何か深く聞きたいことが溢れてきて、これがいけないジャと席を立った。いくら停滞で今日いっぱいフリーであったとしても、今は目の前に重大な目標を抱えている。この場でほかのことに夢中になってはいけないと思うんだ。(野遊はこのころ深田久彌著『ヒマラヤの高峰』シリーズを読破して、勢いで小西正継さんなどの著書を再読しまくっていたので興味があったのだ)

激しい雨が小ぶりになってきて、ふと雨音のやむ一瞬がある。外を見ると、ガスだけで降っていない。そうなると野遊の心は騒いだ。今から朝日の小屋まで行こうかしら。

が、決まってすぐそのあと、雨が戻ってきた。11時を過ぎた。野遊の腹は座った。もう晴れても迷わないぞ。

野遊はろくな体験も、もとい、すてきな体験をいっぱい積んでいるけれど、健脚家でもないし強靭な精神もないし、熟達者でもない。ただ、すごく一生懸命になって、気をつけて、慎重にして大胆に向き合えば、念じた山に登れますよということだ。バットレスに登りたくても、念じたりはしないから。そういう身柄は、こういうときは行動すべきでないんだ。

では!お昼にしよっと。時間があるから火を使ってカレーライス。アルファ米の入った袋に熱湯を注ぎ15分待つ。乾燥カレーに熱湯を注いで出来あがり。以前は加熱するだけのボンカレーというのが画期的だったが、今ではそんな重いもの持たなくなった。世の中進んだものだ。すごくおいしい。具が少ないので、カレー汁を1個半持ってきた。それをご飯にかけるとたっぷりあって贅沢気分だった。ドライフルーツを食べ、熱いコーヒーを喫し、昼食は二階の空間でひとりリッチに過ごした。

閑話休題・このカレー、家で作り方を試しながら試食したのだが、そのときはおいしいと思えなかった。だから山の食べ物は家で試食しないほうがいいと思うよ。^_^;☆

午後になると、階下は時々登山者が立ち寄って、小休止して出発していった。窓から見ると、雨で煙った登山路がかすかに見えることもあり、そこを登っていく登山者はまことにご苦労様なことだ。