朝日連峰 障子ヶ岳 5 「朝日族の朝日への心意気」

7月16日(土)

朝、女将さんが声をかけてくださったので目覚めた。4時45分だった。自分から起きたのではないので、時間はまだ早かったがそれこそ飛び起きて布団をたたみ、トイレへ行って口をすすいでザックを背負い、玄関口に立ったのが5時。ちょっとクラッとした。

野遊は昨日「出発は5時半くらい」と答えていたので、5時に起きるつもりだったのだが、ペースが狂った。ほかの宿泊者がたが早く出発して行ったので、女将さんが気をきかせてくださったのだろう。

おじさんが車を出して、野遊を登山口まで連れて行ってくださった。なんという親切だろう! 朝日登山は、交通が少なくて不便な分、人が支えてそれを補っている。宿泊するとそこの方が、必要とあらば送迎を行なってくれる。登山者同士でも、林道を歩く同胞を拾ってくれる。

そういえば山じいが、「山形の駅から登山口まで送ってあげましょう」と言ってくださったものだ。野遊はその気持だけでもありがたく、飛びつきたいほどだったが、自分でできることは甘えてはならないと思って、謹んでお断りしている。けれどももしかしたら、これは東北の人々の、朝日への心意気なのかもしれない。

下車して歩きだしたのは涼しげなゆるい登山道。少しずつ傾斜を増していく。そろそろ日が射してくると、温度がぐいっとあがる。人気はないのに、登山道の真ん中に堂々と大きな排泄物があって、縦に筋が走っている。これは熊だそうだ。筋は、竹の繊維だとか。でもなんだか生々しいのもあって、人間のみたいな気もした。今日の一番乗りは野遊のはずなので人間のではないのだが。