朝日連峰 障子ヶ岳 20 「長靴」

「どうして天気がいいのにザックカバーしてるんですか」と、明るい人懐こそうな笑みを浮かべてMさんが天狗さんに問うと、「どこに持っても同じだから」と、天狗さんは奇妙な返答をしていたが、全く天狗さんのザックといったらズデンと大きくてしかも斜めに偏っている。それだけではない。肩ヒモの肩のかけ方も、目を覆うばかりにいい加減で、左右アンバランスも甚だしい。
こんな状態で歩いたら、野遊だったら100mでヘバルね。見ると、右側に傘が差してある。折だたみでない大きな雨傘だ。そのデコボコごとすっぽり無造作にカバーで包んでいるのだった。それだけではない。片手に鎌を持っている。大きな重そうな鎌だ。「すぐ後ろを歩かないでね」と天狗さんは野遊に言ったが、歩きながら鎌を振りまわすのだ。何度も往復しているこの道の、それでも生えてくる草々の頭を、天狗さんはサックサックと切り落として歩く。野遊だったら50mでヘバルね。この道は天狗さんにとっては庭なのだろう。庭に装備の仕方も何もないのだろう。

下りは、登りだったらうれしいだろうなというところに水場があって、ここを登っていたとしたなら、野遊は今ごろどこで何をしているだろうかという思いが胸をかすめた。

途中でMさんが、オレンジを四つに切って、天狗さん、写真家さん、Mさん、野遊で食べた。う〜ん、珠玉の甘露と言うべきか。重量ばかり気にして、「パッキングに命をかける!」と豪語してきた野遊だが、改めてタイムスリップだ。何度いい案を見出して実行しても、また元に戻ったりの繰り返しだな。(次のときはオレンジを持って来ようか)

天狗さんがゆっくり歩くので、野遊は歩きやすかった。本当に助かった。でも後続のMさんや写真家さんたちはのろいなあと思っただろう。野遊は一生懸命歩いているのに、後ろの二人は談話していた。天狗さんと写真家さんは\(◎o◎)/長靴だ。裏のしっかりした光沢のない長靴だが、天狗さんは結婚式でも長靴で\(◎o◎)/、そういうときは光沢のあるのを(つまり普通の雨用ゴム長靴)を履くそうだ^_^;

この裏のしっかりした光沢のない(登山向き)長靴は、天狗の小屋の土間に置いてあって、登山者が水を汲みに行くとき、いちいち登山靴を履こうとすると、「それ、使っていいですよ」と、天狗さんは言っていた。