朝日連峰 障子ヶ岳 29 「一番好きです」

障子ヶ岳は、朝日連峰の中でも、いかにも個性的だ。障子のように張った岩壁、きっちり三角形の容姿。けれど主稜線ではなく、稜線に向かう尾根に衝立する山だ。朝日の神様は、あまりに個性的なこの一座を主稜線からはずし、しかも高さを与えなかった。もし障子ヶ岳が並み居る稜線の山々の中にあったら、注目を浴びすぎて朝日の特徴であるバランスが崩れる。

朝日の神様は、その派生している登山道に、そっと「とびきりすてきな山」を添えたのだ。芝居で言うなら「すごい主役連中の陰に、端役にも主役級を置いています」だ。そういう芝居は重厚である。この心憎いばかりの自然の配膳?によって、朝日連峰は益々その価値を深める。

野遊は、この「朝日連峰障子ヶ岳」のシリーズNO.1で、障子をこの世で一番嫌いと書いた。朝日なんか嫌いと書いた。あのときは本気だった。そして、その気持を点検するためにこれを書き進めてきたのだった。

ここまで書いても、まだ障子ヶ岳が嫌いだったら、山をやめればいいことで、別にどってことないのだが、そんな自分だったら生きている価値もないやという気持があった。あの日の反省を込めて、思わず施したい自分へのデフォルメも施さず、赤裸々に自分をふり返ってきたのだ。

あの障子ヶ岳の岩壁が、鮮やかな赤や黄色で染めあがる季節に、野遊は天狗さんに会いに行けるだろうか。

「5月もいい」とMさんが言っていた。「初めて来たのが5月で、雪尾根で迷いかけた」と。そして天狗さんに会ったと。以来時々ここに来たくなるのだそうだ。雪の残るバカ平からの道、天狗の小屋まわりはおとぎ話のように美しいという。雪道を行く母熊と、そのあとを歩く2頭の小熊の鮮やかな白と黒の写真。天狗の小屋に飾られてある。これは天狗さんの撮影だそうだ。

5月は、夏と違ってシュラフも防寒具も重いだろうな。差し入れに鎌倉ビール。野遊にはムリだ、重くて。山仲間でもある野遊の夫が「ビール持ってもいいよ」と言うが、2,3本のつもりらしい(>_<) プー子(野遊の娘)も「天狗さんに会ってみたい。山じいさまにも会ってみたい。ブルーベリーさんにも、写真家さんにも、寒河江に送ってくれたMさんにも。そこに行ってみたい」と言うが、自分の荷物だけで手いっぱいだろう。でもプー子にあの景色を見せたいな。・・・などと考えている野遊って、本気で行くつもりみたい。