朝日連峰 障子ヶ岳 30 「再会の日まで」終章

いつかまた障子ヶ岳を超えたい。今度は笑顔で歩きたい。
お水をいっぱい持っていくそ。炭水化物もしっかり食べていくぞ。
でもそういうことではないんだ。
一面、落とし穴だらけのところを、すべてに注意を向けて登山しなければならないということだ。
水を持って行ってもほかのことで失敗するかもしれない。
あの山に注意を払っていたら、この山でタックルされるかもしれない。

竜の小屋番さんの遠藤氏が言っていた。
「1年、歳をとるごとに、山が100m高くなる」
もういっそコワイ大変な思いをして山に登らなくともと思うが、風が吹くと、雨が匂うと、太陽が輝くと、さざ波のようなざわめきが心にわきおこる。山恋だろうか。

障子の下りでフラフラ歩きながら草に顔を埋め、「野遊を天狗の小屋に行かせてね」「もう山に登らないから今回だけ助けてね」「ほんとうだからねほんとうだから」と、山だけでなく道にも草にも石にも言った野遊なので、「あのう撤回させてください」と、挨拶に行かねば。

朝日連峰で一番好きな山は?と聞かれたなら、これから野遊は「障子ヶ岳」と答えよう。
この世で一番好きな山、障子ヶ岳。

朝一番で歩き始めてなんと暗くなるまで歩いてしまった障子ヶ岳だ。
健脚なら2往復もできるほど時間をかけた障子ヶ岳だ。
障子ヶ岳に、野遊の悔しさと苦しさと、惨めな失敗の気持が疼いている。

けれども今、障子ヶ岳を思うと、あの水のおいしさの記憶が断トツ最高だ。
今、障子ヶ岳は野遊にとって・・・「お水がおいしかった山」だ!

野遊はこれから出かける1週間の旅、ロシア(シベリアからイルクーツク)に、天狗の小屋でいただいた木片のペンダントをストラップにして連れて行こう。ハードな仕事だし精神的に辛いこともあるだろうが、そのときはこのペンダントを握り締めて障子ヶ岳を思おう。
あの苦痛を思えば、どんな困難も乗り越えられる気がする。

障子ヶ岳を教えてくださってありがとう、☆山じい☆!
きっと会いに行くから朝日連峰障子ヶ岳!   
 「2011/朝日連峰 障子ヶ岳 了」