朝日連峰 障子ヶ岳 28 「無垢の山」

朝日連峰は、ひと目で見渡せる姿をしている。粟畑から眺めると、以東岳はこってり堂々としていて、寒江山はなだらな起伏のつらなりだ。竜門山は小さく丸く見える。その向こうの西朝日岳が大きいからかな。特徴のある大朝日岳、すんなり華奢な小朝日岳。どれが一番好きかしらと思いながら見ても、どれか一つを言えない。この集大成がいいのだ。1000m級とは思えない、大々とおおらかな山脈。

あの道の、どこが危険というのだろう。優しい顔をしたきれいな道だ。でもあまりに広く、どこまでもゆったりと大きく、行けども行けども続いている。果てしない野原みたいだ。朝日連峰が、たとえば北アルプスなどと比べられるのは、北アがポピュラーで人気があるからだろうけど、北アより朝日のほうが難易度が高いとはどういう意味だろうか。

登山道を思うと、野遊にはそれが理解できないのだが、まっさらな気持で思うに、やはり朝日連峰は日本の山の中でもレベルが高い。それはあまりいじられていないから。登山者が自己判断する部分が北アより断然多い。昔、先輩が朝日連峰を「無垢な山」と賞賛したことがあるが、朝日を守る地元の人々の為せる業により、今も朝日は無垢を保っている。


そして気象だ。東北の山に降る雪はすごい。量だけではない。雪質が違うそうだ。吹く風もすごい。野遊が岩に叩きつけられて往生した昨夏、小屋番さんが、今日の風は別に特筆すべきものはないと言っていた。そして照る陽もすごい。東北の山の気温はどうしてあんなに高くなるのだろう。昔、飯豊連峰を歩いたとき、その年の最高気温が福島だったことがあり、40度を越した。それは標高の問題のようだ。3000Mの高さだったらあんなに暑くならないと。太陽はどこに照っても同じで、日陰のない転付峠(南ア)への長い登りなど、野遊の記憶の最高のものだが、そういうレベルではないのだ。暑さにも種類があるのだろうか。

「朝日暑い〜熱い〜」と、夏季の登山手記に書きまくられる。こういうことを合わせて、朝日は難易度が高いと言われるのだろうか。雪渓があるので水場は多いのだが。

朝日連峰好き〜」と言うと、「どの山が?」と聞かれることがある。相手は主峰とか、せいぜい以東岳を知っているくらいでも、何岳を好きなのかと聞く心理。「全部が好き〜」と野遊は言ってきた。「なんかポイントないねえ」と笑われるのだが。どれもそれぞれいいけれど、どれもほかの山を圧していない。引き立たせ合い、なじみ合った美しさがある。朝日はそれがいいんだよな〜と思ってきた。

そしてこのたびの障子ヶ岳は。