朝日連峰 この秋 5 「その前夜」

今日は忙しかった。朝から出かけていたので、ルネのことを確認しなかった。ルネは部屋に閉じ込められて、大きな声で鳴けばいいのに、静かなネコなのだ。夕方帰ったら、うっかり閉めたドアの向こうから、しょんぼり出てきた。部屋に粗相していた(T_T)。ごめんね、こんなこと今までになかったのに(T_T)
ゴスケも帰ったところで、二人で「かわいそう、かわいそう」と言い合った。

夜、ゴスケが野遊の部屋に来たので、ルネのことで怒っているのかと思って、ドアを細くあけたら、「これ、持って行って」と、なんと援助金?を。この前も「費用はあるの?」と聞かれて、「ある、ある」と言ったけど、「ギリギリで行くんじゃないよ」と言っていた。野遊、そんなビンボーじゃないよ。これは野遊の遊びだから。ゴスケが仕事しているときに、登山するのだからねルネも預けて。

「今日はルネが君を恨んでいるのかな、僕になついているから、僕の部屋にいるよ♪」とゴスケはうれしそう。やっぱりルネのこと、言われた(>_<)
「明日からがんばれよ、そのなんだ山じいさんによろしくね、鎌倉ビール、買った?」と。名物鎌倉ビールは瓶しかなくて、それも冷蔵庫保存だそうで、買えなかった(-_-;)
「代わりにダークダックスのアルペン歌集のCDを、おみやげに持っていくつもり」と言うと、「ガハハ〜そんなもの聴くわけないよ、僕も聴かないし」だって。
ゴスケはいつか、自分も朝日連峰に行きたいそうだ。本当かなぁ、ゴスケは場あたりで言うから。今年の夏だって、自分も行こうと乗り気に言っていたのに、いざとなったら「ムリ〜」と言ったよ。娘のプー子も父親似。
山じいは、初日の夕食分などを、二人分、持ってくれるという。それは甘えではないかと野遊は迷ったが、断るに足る体力を自覚していない以上、どうすべきか。

「山好き人間は全て同じ体力ではありません。一緒に山に入るには、より力のある者はそれなりに背負い、力の弱い方は、素直にお願いして良いと思います。それでひとつのパーティなのだと思います」

山じいの言葉は、登山格言集に入れたい。「それでひとつのパーティ」。そうだ、昔、山岳部で、共同装備には冷徹なる「差」があった。また、野遊が幼かったプー子を連れてハイキングに行ったころは、プー子はかわいいリュックに、チリガミとハンカチと、キャンディーを持っていただけだった。(ちょっと違うか^_^;)

朝日で死んでもいいと思う。でも、それは山を汚すし失礼だし、世間様に迷惑をかけるから絶対いけないことだ。
でも、そういうとことを度外視して思うに、朝日に抱かれて死にたいものだ。

野遊はもう何を書いているのかわからない。夢で、日暮れ沢を何回も登った。丹沢のバカ尾根を行って帰るのと同じようなものじゃないか!と、快哉を叫んだり、疲れて倒れる夢も見た。いっそ天候が荒れてくれ、登れなくしてくれとさえ思った。

野遊は明日、午前中仕事がある。そのあと帰宅してから、すぐ出かける。時間刻みで行動する。18時に山形に着く。2011年10月21日(金)5時、山じいが迎えに来てくださる。車で日暮れ沢まで入る。そしてすべてが始まる。
1週間後、自分は、何をしているのだろう。もう何も考えられない。