朝日連峰 この秋 8 「妖精が飛びかう世界」

青い空に、ナナカマドの丸い小さな実。不透明なオレンジ系はコリコリと固く、真紅の実はツルツルしていて、ワインレッド系は濡れたような光沢がありプヨプヨしている。「旬の真紅」を主体に、熟れた「うばナナカマド」の艶やかさが深い。木の枝にばら撒かれたような粒粒。仰ぎ見ると空に散りばめられた電気みたい。

ガスが切れて、はるか彼方に障子ヶ岳が、ピラミダルに浮きあがるユーフン山のサミット! そこから一気に眺め渡せる、なだらかな起伏を繰り返す竜門、寒江三山、狐穴への稜線!

相模山に続く黒々とした長い尾根、その対角線上に連なる天狗への明るい色合いの尾根。その2本の尾根を左右に従えて、向こうにそびえる以東岳
振り返れば西朝日、大朝日、小朝日岳

三方境から、天狗への尾根に通じる出発点、細かい砂礫と白い大きな岩岩の、きれいなきれいな狐への道。


カフカの枯葉に敷き詰められた二ツ石、オバラ、コバラメキ。足元は、赤と黄色と茶色の協奏曲。葉っぱのひとつひとつに宿っている神々。

野原みたいな、丘みたいな優しい表情の天狗角力取周辺の道。ガスが流れ、陽を浴びて姿を現す以東岳、障子ヶ岳の雄姿。

夕方の、天狗の小屋から見た真っ白な雲海。モクモクとした重量は感じられなく、ぴったり静まり返って輝いている。竜ヶ岳は、鏡のように凍る海に浮かんだ島だ。


常緑葉の濃い緑、薄い緑、紅葉は染め抜かれた黄色、真っ赤、葉の落ちたブナの木は柔らかいグレーで群れを為す。小雨があがり、青空を背景の、色とりどりの山腹に虹が立つ、半円の大きな虹が立つ。

そして下った登山口で、最後の障子を仰ぎ見る。何度も何度も手を合わせ。

妖精は、他愛もないことで消えてしまうという。永遠に消えてしまうと。朝日連峰は、妖精が元気に生き生きと飛びかう世界だ。

「こっちよと 妖精たちにささやかれ」