朝日連峰 この秋 13 「ミナグロ」

10月22日(土) 霧雨か。ライトを頭につけず、手で握って足元だけを微かに照らして階下に行き、山じいは本当にいるのだろうか、もしかしてあれは山の妖怪、もとい妖精で、どっかに消えてしまったのではないかな、というほど静かだったけれど、ライトの明かりをほかにもらさないようにしてトイレに行った。トイレでは、頭に装着した。

二階に戻って、もう一度眠りたいなあと思ったが、そのうち階下で明かりが揺れた。いたのか・・・。それっと起きるのが当然なのだが、野遊はすっかり怠け者になって、ゆっくり起きて、とにかく苦手なシュラフたたみだけは先にやっておこうと四苦八苦モタモタ。雨みたいだし、もう行くのは嫌で、第一だんだん寒さが感じられるようになってきて、何で今、こんなところにいるのだろう、何でまたこんなところに来てしまったのかとつくづく嫌になった。

でもワープできないし、階下に行き、「おはようございます」と言った。山じいは朝食の準備をしていた。昨日残ったキノコ類を刻んで、スパゲッティを茹でる。それが本物のスパゲッテイだった。野遊はお湯を入れる乾燥食品かと思っていたので、あんなの朝から食べたくないので、ソイジョイでいいですと言いたかったけれど、あんまりちゃんとした食事なので驚いた。市販の簡易ソースがあって、これは山用ではないと思うが、茹でたスパゲッテイにかけて食した。朝なのに、おいしく食べられた。

この間に野遊は自分のコンロでお湯でも沸かして、スープを作るべきだったのだが、すっかり忘れていた。(あとでスープが置き去りになっていたので思い出した)・・・野遊はいつも人にしてもらってばかりの甘えたダミーな人間なんだ(-_-;)でも、ハッと気づいて、食器を洗いに行った。上出来(^.^)♪

7:00、雨の中、いざ出ると、すぐに慣れて、それほど苦痛でもない。昨日楽しく歩いた小屋から分岐への道をトットコ行くと、山じいはケータイで、山岳会の登山道整備隊と連絡を取ろうとしている。それからは時々立ち止まって、連絡を取ろうとしている。連絡が取れないみたい。でも整備隊は雨天決行で、きっと、7時に大井沢を出発しているだろう。

80分歩いた。2回休憩タイムを入れている。山じいが「もうこれから先は危険なところもないし」と言うので、野遊は山じいの言おうとすることを了解して、先に行ってくださいと言った。で、別れたのだが、見る間に山じいは野遊の前から姿を消し、二度と捉えられなかった。あれは妖怪でも妖精でもなく、「ミナグロ」だったのか。