朝日連峰 この秋 14 「角力尾根」(すもうおね)

初めて歩く天狗への尾根道で、野遊はひとりぼっちになった。にわかに寂しくなった。で、トボトボ歩いて行くと、もうだれかを追いかけなくてもいいのだ、ということがわかってきて、にわかに楽しくなってきた。最も歩きたいと願っていた道で、野遊は解放されたのだ。足元の枯葉を値踏みしながら拾い、ルンルン気分で歩く。

小雨はいつかやみ、時折ガスが切れて、景色が浮きあがる。きれい、きれい。もったいないからゆっくり行こう。でも、二つ石山に着いたとき9:50だったので、小屋から2時間というのを、休憩を入れて2時間50分で着いているのは遅すぎると思い、もっとしっかり速度を入れねば、と思った。

枯れ葉のスキーみたい。葉の下の土は優しげだ。ブルーベリー氏が言っていた。歩く人が少ないから道がフカフカだと。これのことかぁと思った。小さな起伏が続いて、だんだん、後戻りしているのではないかなどという気持になったりして、どこまで行っても終わらない。長い道だった。

前方に、大きな家みたいなシルエットがあり、ゆっさゆっさ揺れていて、まわりに大勢の人々が騒いでいる。どう見てもそう見えるけれど、近づくと、それは大きな木であり、人々も、木だった。白い立て札に、赤いペンキで何か書かれてあると思って近づくと、それも木であり、近くの紅葉が重なって見えたのだった。

行く手が、今までの様相と違ってきている。なんとなく楽しげな景色になってくる。それは天狗角力取山への道に入っていた。そして天狗角力取山にいざなわれていった。陽が射して、以東岳、障子ヶ岳がスックとそびえているのが見えた。そこで昼食タイム。ソイジョイと、ポカリスウェット。そして天狗の小屋に下りて行った。石畳を踏んで。3ヶ月前のことなのに、すごく懐かしく、胸がいっぱいになった。

野遊はこの、狐穴から天狗角力取山までの尾根を角力尾根と呼ぼう。すもうを取るみたいに、小細工なしでがっぷり四つ、どこまでも歩いて行く道だからね。

丹沢山塊でたとえたら、規模は違うけれど、さながら丹沢山から派生している三峰尾根といったところだろう。「丹沢三峰」という。山あり谷あり沢あり岩壁あり、熊あり鹿あり猪あり野鳥あり、オールバージョンそろっていて、大きくそびえる富士山の景観ありの、野遊「お国自慢」の丹沢だ。