朝日連峰 この秋 23 「ミキ尾根」

朝日連峰は主稜線が北から南へ伸び、「東北随一の長大な縦走路」と言われる。その中央に派生した両尾根はただの下山道ではなく、いくつかの山を連ねて長い。北南東西と十文字になっている連峰だ。

三方境から西へ、大井沢に延びる角力尾根の、対角線上に連なる東の尾根は、唯一新潟側からの登山道で、三面(みおもて)が登山口となる。
三面の名称の由来は、三面川、末沢川、猿田川という三つの川が合流するところ、という意味があるそうだが、これらの川にまだ名前がなく、「あの川、こっちの川」と呼ばれていた昔から、この地域は三面と呼ばれていたそうだ。名称由来は諸説あるようだ。

三面集落は石器時代からの歴史を持ち、奥三面は平家の落人伝説や、動植物資源が豊富でマタギの里として有名だったという。
この地にダムが建設されることになり、1985年、新潟県岩船郡朝日村三面は閉村した。その後発掘調査があり、「国内最大級の環状列石か」「直径は50メートル規模」「多数の石遺構」「敷石住居跡」などの見出しで報道され、奥三面歴史交流館がそれらの遺跡の一部を収めた。
                                      
平成12年(2000年)3月、村全体が、貴重な民俗学的資料と共に水底に沈んだ。
ここからの登山道は、朝日の山でも特に入山者数が少ない。
けれど、どんなに不便でも、登ろうとする登山者はいる。年に何人くらいいるだろうか。
                
登り始めはヤブ蚊に悩まされたり、草ぼうぼうで道がわかりにくかったりするそうだ。途中から登山道が判明して、平坦な道をさんざん歩くという。スリルのある一本丸太の吊り橋などを渡っていくと、三面避難小屋に着く。草々は大変な勢いだそうだ。
そこから三面本流にかかる立派な吊り橋を渡って急登が始まる。草に隠れて見えない鎖もあり、緊張して登って行くと、尾根に取りつき、道陸神峰(どうろくじんぽう)へのキツ〜イ登りとなる。道陸神峰の避難小屋は筒抜けのドームで、ブルーシートが戸の代わりだ。小屋というか避難場所というか。大上戸山へは短い笹が覆いかぶさり足を出すごとに抵抗がかかる歩きづらさで、細かいアップダウンが続く中、登山道の原型が確認できる程度の草ヤブ状態が続く道もあるとか。  
                                                                                     
以前、登山道整備の方が熱射病でなくなったそうで、以来放置されていたこの尾根を、新潟側から依頼を受けて、最近、朝日の聖者方が隔年整備を請け負っているそうだ。

相模山のサミットはなんでもない場所にあって、通り過ぎてしまうことがあるそうだが、三角点があり、整備された年は目につくようになっているようだ。
草もざっとだが刈り取られているようだ。一本丸太橋には新しいワイヤーが足されたそうだが締めがゆるくて、古いワイヤーのほうが頼れるそうだ。
見あげる相模山への道。大上戸(おおじょうこ)山のコブと呼ばれる岩。ガッコ沢、源蔵池、善六池、三方池、秘境を越えて北寒江山に着く。
交通手段がなく車使用で、登山者は同じ地点に下山することが多いようだ。
でもまれに、その不便な交通手段をどうクリアするものやら、寒江から朝日や、以東に縦走する登山者もいる。角力尾根に入って十文字登山をする人もいる。
                                      小屋使用なら道陸神峰になり、幕営の場合は大上戸泊が多いようだが、三面から狐穴まで、さらに竜門までと、一気に歩くツワモノもいる。 
                                             
この尾根をなんと呼ぶのか、「三面からの尾根」「相模山コース」などと呼ぶのだろうか。野遊がつけてあげる。「ミキ尾根」。(三面から北寒江だから)
このミキ尾根、地図では黒い点線のバリエーションルートとなっている。
特に危険なわけでなく、ほどほどの整備しかなされていないということ、小屋も少なくて長いですよということだろう。
                                           
ミキ尾根は写真を見ると美しい。途中の小屋に手を入れ、道と道標をもっと整備して、三面まで交通手段をつくったなら、ダムを見学に来る人々や登山者が増えるだろうのに、「登りたいなら拒絶はしないが別に勧めはしない。山を汚すなよ」といった厳然たる朝日連峰の方針、厳しすぎると思う。いや、粗雑過ぎると思う。

人気がなくて登られない山も寂しい。やはり人間が愛でていくことも大切で、登られてこその利点もあるはずだ。ミキ尾根を行く登山者は、それなりの有志であり、いずれにしても少数で、山を汚す事態にはならないはずだ。
もう少し懐をゆったり持って、東北自慢に充分足りて余りある朝日連峰を、登山者に開いてほしいと思うのだが、登られても地元がたいして儲かるわけでもないという仕組みがここでは成立しているので、頑固に緩めてくれない。

また、この理由により予算も捻出されないのだろう。雨量観測所も、観測する人が大変すぎるので閉鎖されたそうだ。放置して腐らせていくのだろうか。それだって自然破壊ではないか。8の字登山も、予算が賄えないという理由によって廃道にされたし残念だ。

自然保護、対して登山、という行為の兼ね合いが難しいけれど・・・。
この世に「ほどほど」という微妙なボーダーラインほどもろいものはない。何でもそのうちに均衡を崩してどちらかに偏っていくのか。ああミキ尾根。ミキ尾根よ。