朝日連峰北方 5、朝、登山口までの車中

目が覚めると5時だった。なんと5時間くらいノンストップで寝たことになる。これはいいぞ!と思った。

昨夏は5時に起きようとして4時50分に目覚ましをかけておいたら、同宿の人は大朝日に行くとかで早く起き、女将さんがついでに声をかけてくださったのが4時45分ごろで、野遊は声をかけられたことにすごく緊張して飛び起きたのだった。さっき寝ついて2時間もしていない。でも野遊の力で起きるつもりでいたのが、わずか10分程度の違いなのに何かが崩れてしまったのだった。

急いで布団をたたんで水を一口飲んだだけで玄関に立ったのが5時だ。登山口まで送ってくれるおじさんを待たせている気がして焦ったのだった。

今年は最初に、女将さんに自分で起きますと言い、6時ころゆっくり出ますと言ってある。起きだして布団をたたみ、顔を洗って落ち着いた気分で階下に行くと、明かりが落ちている。今日は同宿の方は帰宅とのことで、ゆっくりなのだろう。

野遊はうす暗い食堂の椅子に腰かけて待つことしばし。ポットにお湯があって、カップとインスタントのコーヒーなどがあり、自由にどうぞと書いてあるので、1杯飲んだ。

するとおじさんがやってきて、車の用意をしてくれたので、野遊は登山靴を履いて外に出た。女将さんの姿は見えなかった。

出発進行。懐かしい林道を走る。昨夏同じようにここを走った。車の座席で、野遊は寝不足でクラ〜としていたものだ、今回は大丈夫、意識もはっきりしている。

おじさんは、橋本荘に宿泊するお客さんは送り迎えを添えているが、大朝日への登山者方の送迎もしているそうで、それはすごく遠いから大変なことだと思った。知っていれば野遊もそうしたかもしれないが、ちょっと遠すぎて厚かましいのではないかと。車代を別に支払えばいいだろう。タクシー代は高すぎる(大井沢からタクシーなど出ていないから遠くから呼ぶことになる)。
有料でも橋本荘さんに送迎してもらえれば登山者も助かる。でも大朝日岳に登るなら、朝日鉱泉に泊まりたいという気もする。この件は次のときに考えてみよう。

おじさんは、宿泊客の中には泡滝まで送ってというのもいると。えええ〜!と驚いた。車で2時間はかかるそうだ。泡滝は朝日屋だが、橋本荘に宿泊するからと呼べるものなのか。昨年天狗小屋で同宿だった地元の登山者が、麓の山荘はたいてい登山口まで送ってくれると言っていた。それが交通の便の悪い朝日連峰の、麓の山荘の心遣いなのだろうと野遊は思ったものだが、その好意を逆手に取るような厚かましい要求をしてはならないと思う。

車中では昨夏の水切れ失敗登山の話題も出て、おじさんは再度挑戦の雪辱戦と思ってくれているようだった。野遊は、あの折り自分は登山道でへたり込んでいたわけではなく、救助の電話を入れたわけでもなく、日没時間を計算しながら、自力で辿り着く気で歩いているところを、ブルーベリー氏が水を持って迎えに来てくださったのだということを話した。

するとおじさんは、え、そうだったのかと、意外そうな顔をしたので、野遊は、これは相当大げさに情報が飛び交ったのだろうと思った。これも実際に歩きながら検索していこう。

車はバカ平からの道を分け、さらに奥に行くと、いよいよ障子ヶ岳の登山口だ。そこには車が1台もなく、おじさんは「今日はだれも登らないのかな」と言っていた。
そして野遊はお礼を述べて降り、おじさんは帰っていった。おじさん、ありがとう。さあ〜登っていきますよ