朝日連峰北方 27 以東岳の急降下道

ryo-rya2012-10-29

2012年9月13日(木)晴れ

目覚めて朝食を済ませ、部屋を片づけて、ポリタンクに残っている水を、外に流した。ジョボジョボジョボ、いつまでも終わらない。重かったわけだ。底に少しだけのつもりが、こんなにあったのだ。水道水ではないけれど、もったいない気がした。出入り口前にあった大きな湿り気は、まだ残っていた。これも相当余ったのだなとクスリ。

今日は眼下に見える青い熊さん模様の大鳥池に向かって急降下する。オツボのお花畑も見たかったが、歩いていない道に興味があった。

この山行で、野遊がポイントを置いていたのは、初日の障子越え、中日の相模山往復、そしてこの急下降コースの3点だ。そこを行く緊張感と共に出発。7:30。

実は7:00前に小屋を出たのだが、これが見納めかと思うと去りがたく、昨夜の魔界を思い浮かべながら、徐々にピンク色に染まっていく山々を眺め続けてしまっていたのだった。
なに、今日は短いから遅くとも大丈夫、下山はざっと4時間半ほどで、ここから大鳥までが2時間半、大鳥から下山口の泡滝までが2時間。休憩タイムを入れて、ゆとりを以って14時に泡滝。あの調査員氏も、12時に泡滝と言っていたのだから、野遊なら14時でお手ごろだろう。・・・オロカとはこういうことを言う。「初道」が、そんなにスムーズにいくものではなかった。

それにしても虫に刺された左手が痛いことこの上なし。手の甲は息を吸い込んだ蛙腹みたいに膨れあがり、熱を帯びた丸いボールだ。第二関節までパンパンに腫れて、その先(指先)は腫れがまだ行き届いていないので、ものすごく奇妙な形をした手になった。腕を下げると第二関節がズシンズシンと疼き、ここに心臓があるみたいな感じだ。もちろん指は曲がらないので、ストックは常に右手に持ち、左腕は頭に乗せて歩いた。疲れても腕を降ろすと痛みが襲ってくる。虫の毒が体にまわり切るまでは苦痛を堪えるしかない。左肩のリンパ腺も腫れている。

急降下コースといっても歩き始めは柔らかな美しい草原帯で、ふり仰ぐと青空をバックにオツボ峰が、こっちを見ているように聳えていた。あそこをグルリとめぐって下山していくのは長い距離だな、と、尾根筋を目でなぞりながら思った。こっちにしてよかった。意外やこんなにきれいな道だしね。ルンルン♪

道沿いに、大きくえぐられた窪みが多々あり、そこにネットが敷かれてあり、整備の手が根気よく入っていた。これは以東小屋を管理している朝日屋さんが手入れしているのだろうか。

やがて道は次第に勾配を増してきた。

これか。はるか下方の大鳥池に直下降だ。コースタイムではこの道が2時間半くらいになっているので、膝を痛めないようにストックを使ってゆっくり下ればいい。片手をあげたまま。

乾いていてよかった。乾いているのに滑りそう。野遊の歩幅など歯牙にもかけてくれない大小の岩がガラゴロガラゴロ、ちょっと普通の山道になってから第2バージョンが始まる。今度は岩と木の根でガラボコガラボコ、ようやく普通の道になってもう終わりかと思ったら第3バージョンが始まる。粉々の小粒石の道や、滑り台的な土の道ををザラズルザラズル、道標もない道を、ただ時々見え隠れする大鳥池を目指して落ちていく。もとい。降りていく。

だんだん大鳥池が近づいてくるのがうれしい。もう同じ高さになった。そして少し広い緩やかな道を歩いて行くと、池に出た。わあい大鳥池さん、こんにちは!

11時前だ。時間はかかったが、セーフ!と思った。
ここから泡滝まで歩きやすい道で、3時間もあるから大丈夫だ。
・・・けれどそれは間違いだった。
以東から大鳥までの2時間半というコースタイムは、ここまでのことを言っているのではないのだった。ここから池のほとりの長い道が待っていた。