朝日連峰北方 32 泡滝伝説について

野遊が下山した泡滝登山口。鶴岡から大鳥方面に40キロほど行ったところが泡滝で、泡滝ダムがあるのだが、その名の由来は、この場所に滝があって、泡滝という名だったのだ。
泡滝は細かい泡を吹くように流れ落ちる特徴のある滝で、風光明媚な名勝だったのだが、今はダムの底だ。
朝日屋さんの廊下に泡滝の写真が飾られてある。もう二度とだれも見ることのできない風景だ。
写真を眺めていたら、朝日屋さんのご主人がきりっとした背広姿になってご登場。お出かけの支度をしている。
今日は議会があるそうだ。ご主人は市議会議員だ。このご主人から、泡滝のことや、この地方のマタギの話などをお聞きしたかった。
あとで調べてみたのだが、いまいち、泡滝の歴史物語が手に入らない。自分から辿っていかなければ、これもなかなかダムの底なのだろうか。時の流れとは無情だ。朝日屋旅館の朝だ。昨日とは全然違う環境。もう自分で何かしなくとも、ちゃんと事が運んでいく。朝食は昨日の部屋に降りて行けばいい。
向こうのテーブルに2人、渓流釣りの宿泊客が座っている。熱いお味噌汁がありがたい。自由にお茶が飲める。食後のコーヒーも飲める。ゆっくりコーヒーを飲んでいると、テレビでニュースをやっていた。「ああ、下界だ」と実感した。

やがてなじんで画面を見ていたら、尖閣諸島のことで、中国人が、在中日本人に暴力をふるったとか、日本の会社を襲ったとか放送していた。
なんということか。やりきれない思いがした。「最低!」と、思わず口走ってしまった。
そしたら渓流釣りのおじさんがこちらを見て、目が合ってしまった。
その眼は静かで、昨日、池とお魚にずっと向き合っていた目、という感じがした。
おじさんはご飯を口に運びながら、野遊に「うん、うん」とうなづいた。それだけだ。
日本人ってこうなのだなと思った。画面に向かって怒りの拳をあげたりしない。
歯がゆいところもあるけれど好きだ。野遊は日本人でよかった。

野遊が下山した泡滝登山口。鶴岡から大鳥方面に40キロほど行ったところが泡滝で、泡滝ダムがあるのだが、名の由来は、この場所に滝があって、泡滝という名だったのだ。
泡滝は細かい泡を吹くように流れ落ちる特徴のある滝で、風光明媚な名勝だったのだが、今はダムの底だ。朝日屋さんの廊下に泡滝の写真が飾られてある。

もう二度とだれも見ることのできない風景だ。