裏剱(12)剱岳、誘惑の泉

シャワーを済ませた女性たちは、自分の場所で、お顔のお手入れなどを始める。うす化粧している婦人もいる。
イロケのない野遊は、化粧水ではたくだけで、持ち物を整理してからMy草履でお散歩。
小屋前の広場では、添乗員とガイドがビールを飲んでいた。

小屋の後ろにまわると先ほど降りてきた別山への道が見渡せて、空に張りついたように見える別山の頂上に首を仰向ける。目を転ずれば紳士的な風情で収まっている剱の雄姿、そこから連なる駄々っ子のように1峰1峰主張している八ツ峰は、ここからは少し肩を斜めにしたような格好だった。
ここを下り、あの道を登って剱に行きたい。吸い込まれるような誘惑の泉だ。

山に自分が在るという、一生のうちのわずかな、至福の時間を満喫する。

夕食は、温かいシチューがおいしかった。夜は思ったより寒くなかった。女性が詰まって寝ると暖かいのだろう。
またしてもなかなか寝つけず、何ヵ所からかあがる断続的な鼾を聞きながら、午前2時まで目覚めていたが、それから眠れた。3時20分にまた目覚め、そのまま起きていた。野遊の、これが弱点だ。でも少しでも眠れたのでよかった。