裏剱(14)ツアーのすごさ

そこからは気の許せない登り下りが続き、列はしばしば滞っては急に進むの繰り返しとなった。

ちょっと段差が激しいだけの、同じ速度で歩けるはずの、わずかな岩場でも、たちまち列はそこで滞り、そこを通り切った人は、開いてしまった前の人との差を縮めるために急に足早になり、そしてすぐにまた滞る個所で立ち止まり、待つ。

また、どういうわけか突然勝手に立ち止まる人が多い。歩く態勢を取りやめ、靴を左右揃えてしまい、呼吸を入れてまた歩き出すのだ。この不安定にしてランダムな速度の影響をこうむって列は伸び、歩きづらくなっていく。

野遊は一定間隔で歩きたい。前との間隔が開いても、やがてすぐに滞りが出来していて追いついてしまうから。でもそうすると、野遊の後ろを歩いている人は、間隔があくたびに、野遊が遅れているのだと心配する気配が感じられた。それでは後ろの人に迷惑かと思い、「どうぞ」と先を促してみるのだが、その人はなぜか前に出ようとせず、野遊の後ろを食パンみたいにくっついて歩いた。
前方が滞って立ち止まるときは、後ろの人は野遊のザックにゴツンと頭を当ててしまう。毎度繰り返す。どうも下ばかり見て、前方を見ていないようだ。

野遊は鎖場でも鎖に触れないようにして、顔の前に出っ張っている木の枝を払うにも、今足を置いた岩から足をあげるにも、すぐ、本当にすぐ後ろにくっついて歩く人を気遣った。

1mは離れてほしい、いや、せめて2歩分だけでも開けてほしい。「もう少し離れてたもれ」と言えば角が立たないかな、などと心の中で考えながら歩いたが、遅れまいと一生懸命歩いている人にそれを言えなかった。
ツアーのすごさは、どんな歩き方でもいいから、歩ける限りは食パンになってついていくところにあるのだ。と知った。
真砂沢ロッジに着いて休憩した。