裏剱(21)休憩の仙人湯小屋にて

仙人湯小屋に着き、ささやかなスペースでしばし休憩。トイレの用がある人は小屋のほうに降りて行って使った。初日の怪我婦人はガイドとアンザイレンしていて、それを解いてトイレに立ったが、出発時間になっても帰ってくるのが少し遅れて、ガイドが「何やってもノロイ人だ」と言うので、野遊は「あ、また」と、込みあがるストレスを堪えた。
ずいぶんひどい言い方ではないか。つられて思わず笑い声があがったが、言われた本人はどんな気持だろう。確かに彼女はゆっくりだし、躓く回数も増えているが、それはその度に嫌味な言葉を投げられて、萎縮しているからでもあると思う。

初日に怪我をした時点できっぱりと撤退を申し渡したならともかく、本人の意思に委ねた以上は、スタッフ陣が責任を持つは当然で、その責任をガイドは立派に果たしてはいるのだが、小バカにしたような言葉をたびたび使い、態度が悪い。

「次からは靴マーク5はやめるべきですね。4もムリ、3ですね」こんなことをこの場で言われたって、どうしようもないではないか。彼が優秀な登山家だということはわかるが、野遊は、このガイドとは今山行限りにしたいと思った。

(後日記・この手記を、まいたび旅行さんが、かのガイド氏にも回したそうでギョ。…彼は気分を害したかもしれないな、いや〜「かもしれない」じゃなくて害すだろうな。でも陰で内緒で書いているのではないのだからまあいいか。野遊は個人感情で書いているのではないつもりだし。この手記は書きあがったものを章ごとにここに載せているもので、ツアー会社の名を出している以上、書きあげてから、まいたび旅行さんにお知らせして了解を取っている。回されたガイド氏はすでに全文を読んでいることになるので、だからきっとわかってくれるだろう)