十勝岳 11 旭岳登山の朝

夕方に小さく降り出した雨は、夜にはすっかり本降りになり、夜中の内に収まるかと聞き耳を立てていたが、どうやら朝方にずれ込んでしまったようで、窓辺が明るくなっても一面の霧雨世界だった。

今日の予定はロープウェイで頂上近くまで行き、そこから登頂して、のんびり下山する。だから起床時間も朝食もゆっくりタイム。8時ころホテルを出ようかという感じだったが、雨がやまない。雨具を装着して、まずはロープウェイ館まで、舗装道路を20分ほど歩くことになった。しっかり登山装備に身を固めた参加者は多かったが、野遊は雨具を着ないで傘をさした。(この時点ですでに野遊は登る気がない)

ロープウェイ館に着くと、入り口に「本日のロープウェイは雨のため動いていません」という意味の看板が出ていて、ここでしばらく待った。

そのうち予定の行動はあきらめて、「行けるところまで散策して引き返す」に計画変更。参加不参加は個人の自由で、添乗員K氏が「行かない人」と言ったとき、野遊は真っ先に「はい」と手を挙げた。あっさり拒否して後ろに引き下がった。

それから皆さん逡巡はあったようだが、結局男性2名、女性3名が留まる組となった。

そしたら留まる組の男性が、行く気でいる人に「行っても何にも見えないよ」と言った。そのときK氏が、「足を引っ張らないでください」と言った。

添乗員だからあまり強く言えないけど、K氏は「よく言った」と思う。この「足引っ張り男」は、昨日も何かとマイナーに目立った迷惑人だったので、みんなも快く思っていなかった。

彼は言われてもなお反省のない顔をしているので、野遊はK氏の言いたいことをフォローしてしまった。「人それぞれなのだから、せっかく行こうと思っている人の、足を引っ張るようなことを言うものではありません」
で、この「足引っ張り男」は多分、野遊にムカッとしたと思う。
K氏が「そうです!」と、一言添えたし。

雨に煙る高山植物も美しいものです。行こうと前向きな気持で出発するのは結構なことです。野遊が迷いもなくのっけから不参加なのは、のっけから雨だからです。泥んこ雨具をそのまま持ち帰って洗うのが嫌だったからです。雨中行動は、個人山行ではしないからです。また、この名のサミットを「踏んだ」「立った」ということのみに価値感を持っていないからです。旭岳は好天の日に家族と登った思い出もあるし。

ではでは皆さん行ってらっしゃい、9時に出発していった。