北アのゲートキーパー焼岳 10 興奮の山座同定

噴煙の立つ焼岳を間直に見あげながら、見通しのいいジグザグ道を登っていく。
稜線に出ると、向こう側に真っ青な丸い火口湖が見おろせた。南峰の頂上を眺めながら中の湯温泉のおにぎりを食べた。
11時半、北峰を目指して歩き出す。岩を登っていくほどに硫黄臭が強まってきて、緑と灰色に染まった岩の下から白い噴煙が勢いよく噴出していた。そこを右に巻いて頂上に立った。

頂上はたくさんの人々でにぎわっていた。陽に照らされて汗だくだったのに、吹きさらしの頂上でじっとしていると寒くなってくる。上着を一枚羽織って、さてさて山座同定。

まずはほとんどすべてが見渡せるすばらしい絶景だ。お天気に、山神に感謝!
焼岳より標高のある乗鞍の頂上が、何と広々と見通せた。目を転ずれば上高地。霞沢岳が、この上方に大きく位置を占めている。残念ながら野遊は霞沢岳は歩いていない。徳本峠は島々から越えたことがあるけれど。


こんな角度から見る穂高は初めてで、西穂が前面にどーんと張り出しているのに面食らうほどだった。ジャンダルムのシルエットが「生きている」。その右にはっきりと吊り尾根を引いた前穂、その前面に重なるように明神岳。奥穂、北穂はこれらのさらに右後方に連なっていた。

この穂高連峰群もさることながら、野遊が最も惹きつけられたのは笠ヶ岳だ。切っ先をクイッとシャープに持ちあげて、しかもあんなに裾野を左右共なだらかになびかせた山だったのかと驚いた。笠ヶ岳こそ北アで野遊が一番好きな山として、このときほど満足したことはない。体が冷えても動けないほど見つめて、見つめて、もう二度とこの笠を見ることはないかもしれぬと思うと哀惜の念があふれてきて、涙もあふれてくるのだった。