ヒマラヤ山行 (8)現地の生き物・・・虫の話

ヒマラヤにはどういう虫がいるのだろう、知らない。寒いから、虫はあまり発生しないのかもしれない。あれで常に暑かったら、環境が不潔だからダニとか発生するのではないか。

上方で虫は見なかったけれどキャンジュマ(3550m)では小さな蜂を見た。もっと下方で羽虫を見たくらいだ。夏はまた違うだろう。

虫類はどうしても苦手だ。トレッキング初日、到着したパクティン(2630m)のロッジで割り当てられた部屋の片隅に、小指の先くらいの黒い虫がいた。これがダメだ、視界に入ると総毛だつ。そっちを見なくても、いると思えば部屋にいられない。ああダメだ。

コンダクターが各部屋をまわっている。
「部屋、大丈夫ですかぁ?」
これはどういう意味だろう。部屋が大丈夫かって。
虫がいたら大丈夫じゃないと言ってもいいだろうか。
あ、来た。
「そちらの部屋、大丈夫ですか」
「あのう虫がいるのです、すみませんけど外に出していただけますか」
コンダクターは部屋に入ってきて虫を見た。
男性ってそういうの、ひょいと拾って窓から捨てるかと思った。
でも彼は何もしないで、立ったまましばし虫を見ている。
たかがこんな虫で手間かけさせてとでも思っているのかと野遊は心配になり、言い訳してしまった。
野遊「お手数かけますが、虫が苦手で」
コンダクター「僕も苦手なんです虫」

は? あ、そうなの、ヒマラヤツアーのリーダーが虫が苦手ね〜
コンダクターって虫が苦手でも別にいいんだ…次のツアーはキリマンジャロだと聞いたが、虫、出そうだけど困らないのかな。

「じゃあいいです、どなたかに頼んでみますから」
と言ったけれど彼は何とかしようとしてくれて、紙を広げて虫をそこに乗せようとした。それが腕先だけ伸ばして、すっかり及び腰なのだ。
ようやく紙にすくいあげた虫が、ちょっと紙の上を、彼の手元近くに滑ると、彼は「ひゃぁ!」と叫んで紙を取り落しそうになった。

「あの、ほんとうにもういいです、いいから」と言ったが、彼は頑張って虫を紙に乗せ、窓の外に放り投げた。それも、まるでもう一刻も早く手放したいような感じで、紙ごと放ってしまった。別にいいけど。

野遊も虫が苦手だからよくわかるけど、彼は本当に嫌がっていたので、気の毒なことをしたと思う。
野遊の息子も虫が苦手で、昔、夫が6年生受け持ちで修学旅行に出かけていた夜、虫が出てきて野遊が怖がっていたら、この母を助けようと、自分も「わ!」「ギャ!」「こ、こっち来るな!」とか叫びながら玄関のドアーを開けてなんとか外に掃きだしてくれたことがあり、その光景とそっくりだった。

ああ迷惑かけてしまった。でも助かった。

それにしてもやっぱりおもしろやかなコンダクターではある。現代っ子なんだ。

珍しい虫、きれいな虫とか「ヒマラヤ虫」などがあるかなと思って書き出したけれど、虫苦手な野遊の書くものは所詮こんなものでした。虫さんがたどうもすみませんm(__)m

と、これがヒマラヤの虫の話。次回はサイズが少し大きくなって鳥です。