ヒマラヤ山行(21)ダイアモクス

この薬を出すのは指定医があり、予約を入れて出かけた。カトマンドゥでも売っている。価格は日本よりずっと安いそうだけど、慣れていないので日本で用意していくことにした。
実はイヤだった。こんな薬、使いたくないと思った。

最初から半錠ずつ服用して、3000mを越すあたりから1錠に増やしていき、飲み始めの標高に下がるまで服用する。と、これが普通の高山病予防ラインのようだ。もうすでに服用しているクライアントもいた。
野遊はナムチェで早くも食欲がなく、ほとんど食べられなかったので、優秀な鬼コンダクターが、ここらでどうですかとダイアモクスを打診した。

野遊が浮かぬ顔で生返事をしているのを見て、この優秀鬼コンは、何かを思ったらしい。
次の日、昼前にモン・ラ3973mのロッジに着いたとき、野遊に「ダイアモクス、食後に飲んでくださいよ」と言った。

昼食後、各自与えられた部屋に入って、ポーターが持ってきてくれるダッフルバックを開けて整理していると、鬼コンが来た。
「ダイアモクス飲みましたか、まだでしょう」
よくわかるなあ。優秀だからね。
「今飲むのですか」と、浮かない感じで野遊。
「今です。それとも夜飲みますか。でも夜は、ただでさえ眠れないんでしょ」
ダイアモクスを飲んだら、喉が渇いて水を大量に飲み、2時間おきくらいにトイレに行きたくなるので、夜は眠りにくい。鬼コンは、だから野遊は昼に飲んだほうがいいと言うのだ。
それでも苦しくなったら、朝昼と日に2錠飲んでくださいと。

そんなに飲んでも大丈夫なのと思う野遊の気持を先取りして、
緑内障の人は日に何錠も飲むので、2錠くらい大丈夫です」と。
それでいて「食後に飲んでくださいよ、ちゃんと何か食べてくださいよ、キツイ薬だから」と。さりげなくいい加減なところも優秀だ。

「わかりました。飲みます」と言っても立っている。
「今ここで飲んでください。僕の目の前で」・・・お〜(@_@;)
「あとで『飲むの忘れちゃったぁ』なんて言われると困るんで」・・・なんてコワイ顔するの。

野遊、鬼コンの前でドタバタ錠剤を探す。
「僕持ってますよ、あげましょうか」
野遊が持ってくるの忘れたと思っているのか。信じていないらしい。当然だな、野遊、曖昧な態度だったから。相手の態度で直感して白黒に分ける体育系。
「いえ持ってます、探して飲んでおきますから」
と言いながら、立ち退きそうもない鬼コンの前で野遊、必死で錠剤を探し出す。
あった。ゴックン!ようやく立ち退く鬼コン。
もう飲んだ以上は、これから毎日飲もう。

〔1錠のダイアモクスで鬼は外〕 お粗末でしたm(__)m