ヒマラヤ山行(50)最終章 スニーカーボーイ 「ごめんねゾッキョ」

「Be gone」というBGMを浴びながら、ピシピシと音を立てるような寒いルクラの飛行場の窓から、黄土色の道を見つめながら、野遊が長い間まさぐっていたのは、このスニーカーボーイの面影だ。もちろん。いるべくもない。けれども。いる

かもしれなかった。飛行機に乗るまでは、同じ土地にいるのだ。


【以下(34)「ラりグラス咲くルクラ」より抜粋・・・野遊は立ったままじっと、窓から見える黄土色の道を見つめていた・・・野遊は、このルクラのロッジといい、キャンジュマ、ゴーキョのロッジといい、窓から外を眺めてばかりいた・・・昨日その道に見た人を、今、ここで再び見ることができたなら!と、まさかなのに「その人」を目で探した・・・「過ぎゆく」というタイトルを背負ったBGMが、立ったまま窓外を眺めつづける野遊の全身に、静かなシャワーのように降り注いでいた。開け放たれた窓からもろに風を浴び・・・ピシピシと音を立てるような寒さが食い込んだ。恋しく痛い冷気だった】

マテミライマヤガチュ・・・

スニーカーボーイ。彼はライ族だ。グルカ兵と呼ばれる史上最強の陸軍を持つネパール兵は、グルン族、チェットリ族、マガ−ル族、ライ族、リンブー族などだが、彼はその勇ましい歴史を持つライ族だ。
彼は、野遊にとってヒマラヤの、かけがえのない風物詩そのものだ。
彼を想うと、ヒマラヤの風が吹いてきて、山々が見える。

今、キャンジュマの窓から撮った、優しいお日様の下の、彼のショットを眺めている。
もう届かないけれど、何度も何度も話しかけてみる。
一緒に歩いてくれてありがとう。
アイスバーンで助けてくれてありがとう。
歌を歌ってくれてありがとう。

あのスニーカー、捨てちゃっただろうな、記念に野遊が欲しかったな。

あ、やっぱり欲しくない。無造作にゾッキョの糞を踏んでいたから。

・・・ごめんねゾッキョ。涙。


さよなら


                   ヒマラヤ山行 2014年3/17〜4/4 了