シュレスの夏 9 再会

空港バスが入ってきた。止まった。運転手さんが降りてきて、下のボックスを開く。乗客が降りてきて、運転手さんからバッグを出してもらっている。その中にシュレスの後ろ姿はすぐに見つかった。

名を呼ぶ前にシュレスがふり返って目が合った。野遊は走っていって、シュレスが両手を広げて、野遊はシュレス!と言って抱き合った。それはほんの一瞬で、気がつくと野遊はもう離れていた。もう1秒くらいしっかり抱き合っていたかったのにね。

シュレスは心細かったね。野遊を見て思わず両手を広げて駆け寄ったシュレスが可愛そうに思えた。初めての海外旅行で、空港に迎えはなく、バスで現地まで来させてしまうなんて。

「You came well alon. Would have been lonely.」
と野遊はちょっと胸を詰まらせながら言い、陸橋の階段を上がった。シュレスは大きなバックパックを持っていた。それを肩にかけ、小ぶりのザックを背負っていた。普通のトラベルスタイルだった。

野遊は「入れ物は、あなたが持っているザックでいい」と伝えてあったのに、わざわざ購入したのだろうか。真新しいトレッキングシューズを履いていた。山靴は持ってくるようにしっかりと伝えてあったのでうれしかった。でもこんなの履いたまま2日間も飛行機の旅をしてきたのね(^_^;)

陸橋の上から景色を見ながら、「ここは藤沢市。これから隣の鎌倉市に行く。いつもは歩いて行くけど、今日は貴男は長旅で疲れているから、バスで行きましょう」と英語で伝えた。本当はこの景色を見ながら、もうしばし休んで会話してから行くつもりだったけれど、野遊が自分で考えておいた計画通りに事を進めないのだった。野遊はうれしさのあまり、冷静に振る舞えなかったのだ。で、すぐにバスに乗って帰宅した。