Sureshの夏 10 初めて見る海

午前11時ころ藤沢に着く予定だったのが13時ころになったので、急いで帰ってもお昼を大きく過ぎていた。シュレスはお腹がすいたことだろう。帰ってすぐに食事ができるように、スパゲッティを下ごしらえしておいた。ガーリックとチーズの利いたカルボナーラよ。それにサラダとスープとデザート。ゴスケと野遊シュレスの三人で、初めて囲むテーブル。シュレスは緊張していたかもしれないけれど、ナチュラルに振る舞ってたくさん食べた。
そしてシャワー。こっちを回すとお湯が出るなどゴスケが説明した。何か着替えを持ってきていると思ったが、着替えはごく少しでいいと言ってあるし、もしかして(今彼が着ている)厚地のものしか持ってきていなかったら暑いので、とりあえずこれを着なさいと、ゴスケが薄地のシャツを手渡した。このシャツをシュレスはもらったと思ったらしく、ゴスケが次の日洗濯して干すと自分で取り込んで、着ていた。(そして持って帰ってしまった)

シャワーを浴びるとき、野遊は、おそらく彼は体の洗い方とか知らないのではないかと思い、最初だけ洗い方を教えてあげるつもりでいたのだが、脱衣所に立ったシュレスは、野遊の目の前でドアーをぴっちり閉めた。野遊は彼がとても文化的だと知って、滞在中の彼の入浴、トイレについては一切関与しなかった。

これが正解だったかどうか、ちょっとあまりにも関与しなかったかもしれないと、あとになって野遊は思うのだが。もっと彼の身のまわりのことに立ち入ったほうが良かったように思う。日本はこうなのよと、彼に伝えずにそうっとしたまま過ごしてしまったのだった。

シュレスは賢い子で、言わなくとも一緒に生活していくうちに身につけていき、当初野遊はそのほうがさりげなく親身になっている気がしたのだけれど、シュレスだって迷ったこともあっただろう。なんかこの点が密でなさ過ぎたことが、シュレスと野遊の親密度に影響したと思うので、今さらながら残念なのだ。

さて少年でなく青年のシュレスが何をどのくらい持参してきたか点検するのもはばかられて、何しろここのところ蒸し暑いので、涼しい夏の服を買ってあげようと、車で外出した。
ゴスケは遠まわりして海岸道路をドライブした。シュレスは景色がよく見えるように助手席に座り、そして生まれて初めて海を見た。シュレスはまるで食い入るように海を見た。それは台風が近づく天気で、陽が射しているけど生暖かい気候で、海はやや荒れていた。青空の下の明るい海ではなかったがシュレスは「エキサイティング」と何度もつぶやいた。

「降りて海岸に立ちますか?」と聞くと、「No」と言った。怖いんだって。

藤沢駅に行く途中の道路は混んでいて時間がかかり、シュレスは居眠りをした。時差が眠いのだろう。帰ったらお昼寝しなくちゃ。

藤沢駅ユニクロで、シャツと下着を買った。シャツは野遊が選んだ。明るい青に、赤い線が入った、シュレスに似合うシャツだ。そして帰ってお昼寝した。野遊は夕食の支度だ。なんだか今、期待いっぱいの、とってもすてきなことをしている気分で、野遊はうれしかった。