シュレスの夏 11 お箸に挑戦

夕食はゴスケはお刺身が好きでマグロの切り身をひとさく、先ほどお買いものしたときに買ってきている。野遊はシュレスが普段食べている延長線上のものを考えていた。いきなり違う国に来て食べ物もがらりと違ったら過ごしづらいのではないかと思ったのだ。
で、ネパールには「モモ」があるので、餃子を作った。副食もそれに合わせたものにしたが、お刺身だけ浮いていた。なんだかなぁ〜まいいか。

シュレスのお茶碗は、最近ある方からいただいた白地に水色の海老の絵柄の入った丸い瀬戸焼き。煮物入れにもいいのだけど、ゴスケがこれにしようと。まろやかな柔らかい感触の、いい小丼だが、野遊は海老の姿は苦手なので、その器は使っていなかったのだ。

この海老ちゃん小丼が実に容量があって、ご飯が1合以上入ってしまった。ちょっとゴスケってばいくらなんでもそんなにドカドカよそわないでよと思うほどご飯を盛った。

タイ米と違って日本のお米は重いから、シュレス、大丈夫かしら。でもネパリって大食だとも聞いた。たしかにトレッキングでシェルパがたの食事を見ることがあったが、「一人分でしょうか」というほど量が多かった。そしておかわりもあるのだ。ダルバートの場合。すごい。まああれは労働中だからかもしれないが。

シュレスにフォークとスプーンとお箸を用意して並べた。人魚の箸置きに、シュレスのために買った新しいお箸を置いた。

シュレスにはせっかく日本に来たのだからお箸体験をさせようと思った。

シュレスはゴスケに教わりながら頑張ってお箸を何度も持ち替え、もういいからと言っても「try」と言ってお箸で食べた。野遊はサラダボールの生野菜をお皿に何度も盛ってあげた。シュレスは楽しそうに見えた。

食べにくいと楽しくないから、途中からはフォークを使っていいと言ったが、シュレスは絶対にフォークを手に取らないといった感じでお箸を使った。いつも使っているのに不便だろうねと思ったが、そんな野遊の気持が伝わったのか、シュレスは、「僕はいつもフォークやスプーンを使っているわけでもないんだ」と言うので、「では何を使うの?」と聞いたら、「手」と言うので、野遊は思わず笑った。シュレスも声をあげて笑った。シュレスにしてみれば生まれたときからの習慣だから、おかしくはなかったはずなのだけど、野遊がなぜそんなに思わず笑ってしまったかを察知して、野遊と同次元でおかしくて笑ったという感じだった。シュレスは屈託なく、勘のいい子だった。

シュレスはご飯を完食した。最後に、油の浮いている餃子のお醤油小皿を手に持って飲み干した。その飲み方がいかにもおいしそうで、野遊も自分の小皿に残ったお醤油を飲んでみたくなったほどだ。

食べ終えると、シュレスは右手指で口元をしっかり拭いた。いかにもナチュラルな仕草だった。口元はきれいになった。あんまりしっかり拭いたから、少し赤くなっていた。
野遊はテッシュペーパーをテーブルに置いて自分もそれで口元を拭いてみた。ゴスケもそうした。するとシュレスも真似をした。手もテッシュで拭いた。シュレスはほんとに勘のいい子だ。