富山 7 劔だ!

14時半ころ、黒部宇奈月温泉駅の構内で待っていると、金太郎温泉のスタッフが看板を持ちながらやってきて、小型バスに案内してくれた。

10分ほど行くと立山の全容を隠していた毛勝の山並みの背後から、縦にアコーデオンのような襞を刻んだ三角の山が、白く姿を見せた。あ。劔だ!

前衛の山々の向こう、遠く薬師も眺められた。その途中の山は隠れて見えない。

バスの中で胸を高鳴らせていると、金太郎温泉に着いた。日本百名泉だそうで、なかなか大きい建物だ。普通の形式で予約したのだが、平日で宿泊客にゆとりがあったのか、空いているらしく、とても豪華な部屋に通された。そして箱に入ったバスタオルをプレゼントされた。「退職おめでとうございます」と言われた。

それは予約の時に聞かれたからだが、まさか、こんなことをしてくれるなんて驚いた。豪華な部屋もそのサービスだったようだ。部屋に案内されるときも、中江さんが「プレゼントはいただきましたか?」とにこやかに聞き、大きなホテルなのに連絡が行き届いているということか。「はい、いただきました」と答えながら、こういうとき中江さんはホテルに対して謙譲語を使うものなのかしらと思った。

部屋は二つあって、大きな和室に、セミダブルベッドが二つある洋間。それを1枚障子がオシャレに区切っていて、その横のお風呂が露天になっている。湯船につかりながら、木の引き窓を引くと、北アルプスの山々が見える。うわ贅沢。

ベランダに出ると目元は桜の花、向こうは緑の草原が広がり、その上は急に雪山だった。劔の雄姿が貴重品のように感じられ、ここを動くことがもったいないようだ。

富山は山小屋か、せいぜいみくりが池ホテルの登山客用ベッドルームとか。だからこんな素敵な宿泊は初めてだった。

と、最初はわいわい騒いで喜んでいたが、結局入浴は、室内露天風呂に心をやりつつも温泉に行った。