ヒマラヤ春のソロトレック2015 4 キャンジュマの黒犬

2度目の地震は次の日の4月27日(月)、キャンジュマ3550mのロッジの中で体験した。キャンジュマにはお昼前に着いた。このままプンキ・テンガ3250mまで下って宿泊する予定だったが、昨日の大きな地震を思うと、余震があるはずだ。プンキ・テンガは山間の、しかも川沿いの村だ。これは不用心ではないかなと思い、キャンジュマ泊まりにした。ここで半日休んで高度順応しよう。

キャンジュマ村の入り口にある1階建てのこじんまりしたロッジを通り過ぎ、坂道をゆるゆると歩いていくと、アマダブラム・ロッジの懐かしい庭が見えてきた。その庭のコンクリートの低い塀に、黒犬が両前足をかけて、景色を眺めていた。野遊は近寄って塀に腰かけ、黒犬に話しかけたが、犬は感慨深げに山の向こうを見入ったままだった。

野遊は今回のトレッキングでカメラを持っていないことを無念に思った。野遊のデジカメは相当古くて、出発前にも調子が悪くなり、買い替えも時間の問題だなあと思いつつ持ってきたのだが、街では使えたが山に入ったら動かなくなり、まあいいやと大して気に留めなかった。けれどヒマラヤの地震ありさまを残しておくべきだったし、ラリグラスの咲き溢れる道や、この黒犬の何とも愛らしい姿なども残せなくて、無配慮な自分を反省している。

ロッジのおかみさんは野遊が宿泊を打診すると、すぐに部屋の鍵を渡してくれたのだが、きつい口調で「泊まるだけだったらお断りだよ!」と言った。英語なのだがネパリ訛りが激しくて聞き取りにくい。でもこういう場合の言葉はざっと想像を入れて理解し、野遊は「もちろん夕食と朝食。今日のランチも」と答えた。彼女は「よろしい!」とばかりに大きな手で野遊の背中をポンと叩いてニッコリした。

ちょっと怖げな階段をギシギシあがって部屋に入り、体が温かいうちにボディ用のウェット・テッシュで全身を拭いた。今日は晴天で気温も高い。それからくつろぎ着に着替え、荷物を整理した。そろそろお昼だ。窓から庭を見おろすと、トレッカーたちが白い椅子にかけて、ランチタイムを楽しんでいた。アマダブラム・ロッジの、野遊の大好きな光景だ。

景色を眺めていた黒犬が、トレッカーたちのテーブルの周りをそわそわと歩きまわっている。食べ物をねだっているふうでもない。やがて小さくキャンキャンキャンと声をあげながらどこかに走っていった。ちょうど1年前の3月、ツアーでこのロッジに宿泊したときも、あの黒犬はどことなく個性的だった。今度はまたどこに行ってしまったものやらとしばらく黒犬の消えたほうを眺めていた。

2回目の大地震は、このとき起きた。