焼石岳 4 焼石報告 後半


早朝、リーダーは男たちを寝かせたまま起きだして朝食作り。野遊は手伝う。
それが朝から具だくさんのお味噌汁に鉄板焼きに、煮物と、ほや貝のお刺身などを出す。
野遊が皆さんの朝食にと持ってきたインスタントのトマトスープなんて、恥ずかしくて。

それにしても、野遊がいたから一緒に食器を洗ったりしたけれど、いつもはこれをリーダーがひとりでするらしく、昨夜も彼女は遅くまで後片づけをしていたし、どうしてみんなで分担して作業しないのかなあ。東北って、男尊女卑なのね。

さあ、雨だけど出発して、登りました。昨日より雨脚は弱まっているとはいえ、
道は最初から水登山、川は増水して、どこがどうなっているのかわからない。
ツルツルしてとても怖かったです。

そんな中、リーダーは、重そうな金槌を持って木道を修理していました。大酒のみの力強そうな男性のSさんは、ザックの中に補修用の木をどっさり持ってリーダーについていきます。

木の橋が壊れて渡れない個所があり、ここが昨日、地元登山者が「肩までつかった」所らしい。もちろん昨日より水は引いているのでしょうが、流れは速かった。
そこを写真家さんは長靴でヒョイヒョイ渡り、「前を行く人の選んだ石の上を飛ぶ」などという鉄則通りにはいきません。だって野遊は山靴だから、あんなにジャブジャブできません。写真家さんは震えている野遊にザイルを出そうとしました。
フィックスロープも設置されてあるザイルで、野遊の体をカラビナでつなげる気。
ほかの人はそれなしで渡るのだろう。それなら野遊もと、石を見極めて自力で飛ぶことにしました。
ギャ〜ギャ〜ギャ〜と、3回ほど叫んだら向こう側に着きました。
スパッツもつけてたし、靴の中は無事でした。

その野遊の様子を参考にして、リーダーは強そうなSさんに大きな石を運ばせ、登山者たちのために石の渡り廊下を造りました。

リーダーは、自分でできることを充分に為し、女にはできないことを男にやらせる。
男たちは焼石岳をこよなく愛し、この山の道を整備するリーダーにつき従っているのでした。
朝方野遊は男尊女卑かと思ったけど、そうではなかった。自然体のリーダーも素晴らしいし、良き協力者である男たちも素晴らしい。それは何とも言えぬ人間関係でした。焼石岳が彼らを結びつけているのです。

彼らが野遊に、「どうだ、焼石岳をどう思う?好きですか?嫌いになったか」と、何度も聞きます。
山じいは「優しい山」って言ったけど、もうどこも水があふれていて、とても怖い山でした。
けれどお花は咲き競い、ふと晴れる霧の合間から覗いた焼石岳の雄姿は、それは美しいものでした。
紅葉の季節はどんなに美しいか、彼らは熱心に野遊に話してくれました。

そして銀明水小屋まで行き、昼食をとって戻ってきました。頂上は登りませんでした。おわり。】

(次は山じいからのお返事です)