鎌倉駅前の交差点物語  (6)  質問文を作成する

千一の議会に提出する質問文は、話し言葉のようだ。平易で聞きやすい。でも、ちょっと文節が長くなると、文頭と文尾が一致していないことがある。それは、千一は、頭で書きたいことを思い描き、左足指で一文字ずつキーボードを打って、それを聞き取りながら、秘書が書き取っていく。と言えばかっこいいが、千一に秘書はいない。時間の都合がつけられる人がそれを手伝うのだが、なかなかそのたびにボランテァを見つけがたく、料金を支払ってどなたかにお願いすることもある。

手伝い人は、ただ書き取ればいいだけでなく、文章の整理もする(だれもがではないが、できたらよりよい)。聞きながらわかりにくい言いまわしなどに工夫を入れたり、「ぐ」と一文字キーボードを打ったときに「グループホーム」と、先取りして書いたりすると、千一のボードを打つ回数が減り、その労力分が、表現したい主旨への直進へとつながったりするのだ。

そうでないと、膨大なるエネルギーを要するので、肝心な焦点がぼやけてしまうことがあるのだ。そして結局表現し切れず、簡略化されたような短い質問文になってしまうのだ。

さて丁寧に行えば何日もかかるこの作業は、聞き取り手が時々音読し、千一が自分の耳で全部チェックしていく。少しずつ少しずつ仕上がっていく。

手伝い人の作業はこういったこと以外に、その時間帯の、千一の生活介助をしなければならない。その時間帯、ヘルパーさんがそばに付き添ってくれているわけではないので。食事を作ったり入浴させたりまではしないが、すぐに筋肉が硬くなって閉じてしまうまぶたを拭いて、刺激を与えて目をあけさせたり、疲れてペースが落ちてきたらお茶を飲ませたり、リラックスさせるために談話したり、トイレの介助もすることとなる。

訴えるに充分の内容とボリュームを持った質問文を作成するには、千一と書き取り手が主旨に向かって心を合わせていくことが必要だ。千一がどんなに頑張っても、人員などさまざまな物理的事情から、そういったぬかりなき質問文を、毎議会のたびに作成できるとは限らない。

以下、ご存知の方もありましょうが、議員は出来上がった文章を議会日より先に提出し(期限がある)、職員が目を通し、質問の内容に関与している部署にまわされ、担当職員が当日、応答するために出席する。市長への直接の質問の場合は、市長が答えを準備して臨む。

そして鎌倉市議会当日となった。