鎌倉駅前の交差点物語 (8)「千一は迷惑だ」

傍聴席はたいていがら空きで、その日も数人しかいなかった。千一の再質問の聞き取りシーンを傍聴席で眺めるたびに、わたしは、あることを思い出す。

ある日、傍聴席で、千一の書き取りを眺めていたわたしは、横の席の男性に、「無駄な時間だ」と、言われたことがある。わたしが千一の発言中にメモなどをしていたので、千一を応援している者だと解釈し、あえてわたしに言ったのだと思う。

傍聴席はその日も数人しかいなかったが、その男性は千一の次や、その次に発言する議員を見に来たのかもしれない。時間は質疑応答が長かったりすると、何時ごろにだれが質問するかは、ざっとしか予想が立たないのだ。で、たいてい聞きたい議員の質問予定時間より早めに来る。

その男性は二人連れだった。二人して口々に、
「あんなに時間をかけて、千一は迷惑だ」
「千一にやらせなくとも、だれかほかの人がやればいいんだ」と、わたしに言った。

「千一は自分で行っているのです。誰かにやらされているのではありません」と、わたしは答えた。

「あんたがやればいいんだ、千一じゃなくて」
「あんたが市議会議員になればいいんだ」と、口々に言われた。
彼らは、千一が陰の誰かに操られて、障害者の立場を訴えていると思い込んでいるのだった。そういう人はたくさんいる。そうではないと言っても信じてくれない。

そのうち、「あのシャンデリアだって税金でついているんだ」
「千一こそ税金の無駄遣いをしている」と、さんざんに言う。

障害者は健常者に比べてすべてがのろいので、いらいらするのだろうが、だからって否定しては人間失格だ。でも、ここで喧嘩しては千一に悪いので、グヤジ〜と思いながらわたしは退場した。

あとで千一に「ケンカシチャエバヨカッタノニ」と、言われた。あはは、そうですかぁ。本当かなぁ。でも喧嘩したってしょうがない。わかってもらわなくては。どうやってわかってもらえばいいの。

今日もあのいやぁ〜な思い出がよみがえってきたが、こうして地道に、一生懸命行動していくしかないんだなと思った。