朝日連峰 障子ヶ岳 11 「プチ遭難でしょうか」

意識もはっきり、元気になった野遊、早く歩きたい。


ところがブルーベリー氏は、
「天狗の小屋の山田さんが来るから待って」と言う。

え〜っ、天狗の小屋番さんが来るの、これって、すごく大げさになってるの、なぜなぜどうしよう。
でも、助けてもらったのだから逆らえない。時間を気にしながら座って待った。
やがて天狗さんが来た。
野遊は、まずは謝ろうと、立ちあがった。
すると天狗さんは
「何も言わなくていい。寝てなさい」
え〜っ!!!
道に寝るの!? なんで!? イヤだ〜!! 虫にさされる〜!!


天狗さんはトーキーで「ただ今収容、障子池の手前」と言っている。
しゅしゅしゅーよーって!!!どどどこに連絡しとるんじゃ〜
野遊が見るからに緊張したからか、天狗さんは「別に何でもないから心配しないで」と言う。
「あのうわたしって有名人になっちゃうのでしょうか」と聞くと、
「別にどこにも連絡していないからそんなことないよ」と、天狗さんは優しく言った。
してるでしょうが連絡! ま、いいか。言える立場じゃないし。

天狗さんは、あとからもうひとり来るが、その人は途中で息があがって遅れているので、 彼が来るまで待ってあげよう、それまで休んでいなさいと。
あああ早くしないと時間が・・・せっかく水を飲んだのに、こんなに休んだら、かえって調子がヘン。

しかもいくら待ってもだれも来ない。
「あっちで休んでいるのかな。もう行こうか」ということで、三人で歩きだすことにした。

これで「小屋到着何時」なんて記載されるのだからと思うと、野遊は心中憮然。

ブルベリー氏が野遊のザックを持とうとする。
「いーです、自分で持てますから」と言うも、小さいサブザックを背負わされ、そこから水を抜かれ、野遊はほぼ空っぽ状態のサブザックを背負わされた。天狗さんが空身にしようかと言う。ブルーベリー氏は、何か持たせたほうがいいからと、3キロもないサブザックを野遊に背負わせたのだ。病人扱いか。助けてもらったので逆らえない(T_T)/~~~

さあ行こう。すごいロスタイム。日が暮れてももう怖くはないが、暗くなって小屋に着くのは無念だ。軽いザックも無念だ。でもこんなとき「大丈夫です!!!」と、意地を張るのはオバカのすることであり。自分で自分のことがわかっていないこともあるだろうし。
この人たちに丸投げしよう。

しばらく行くと、人が座っていた。彼は、小屋にいた登山客だそうだ。
手で合図できる距離にいたので事態を知り、もうそこまでなので、我々が戻ってくるのを座って待っていたのだった。その人は天狗さんに怒られていた。
「二重遭難になったらどうするんだ。勝手に『自分も行く』と言っておいてついて来られないとは」と。
野遊が怒られないで、その人が怒られるなんて(-_-;)

その人は福島の人で、大変陽気で、かなり酔っ払っていたが、3人ともお酒の匂いプンプンで、どうやら酒宴を中断して迎えにきてくださったようだ。

それは、障子ヶ岳の手前で野遊を追い越した二人組が、ノロクサ歩いていた野遊を心配して、小屋に着いたときに小屋番の天狗さんに知らせてくださったのだった。

ブルベリー氏は「あ、朝方会った人だ」と思い、水を汲んで出発、天狗さんは手続き(イヤだなぁ〜)をしてから出発、それに続いて、同宿の登山者(福島の人)が一緒に来たそうだ。この福島の人は、レスキューの業務を学んでいるとか、どうだったかそんな話をしていたが。それで一緒に来てくださったのだろう。なんとありがいことだろう。

頼もしい三人の殿方に前後を守られて、彼ら、冗談の連発、気を遣ってくださっているのでもあり、酔いにほだされているのでもあり、野遊もつられて、一緒に爆笑の連続で歩いた。

そうして歩きながら、野遊の胸は、実は恥に圧しつぶされそうだった。