朝日連峰 障子ヶ岳 16 「交流」

いろいろな人が天狗の小屋にやってくる。冷たいお水を飲んでいく。
「あの水に3分、手を浸けていられたらビール一本あげよう」と、天狗さんは得意満面で言っていたが、20秒と浸けていられない。野遊はタオルをゆすいだあと、絞れなかった冷たすぎて。少し休んでから絞ったほどだ。差し入れに登山者が担いでくる温かいビールは、10分も浸けていたら冷え切ってしまうそうだ。

この水場は小屋からちょっと降りたところだ。
野遊は「MYゾウリ」で、何度も降りては駆けあがったものだ。
少し急なので、降りるときは小またで行くが、水を汲んでどっと駆けあがると、20歩で上に出る。
宿泊客で律儀な人は、いちいち登山靴を履いて出かけていたが。

天狗さんは毎週末、小屋に登って来るそうだ。草刈は、それぞれの小屋番さんが、周辺を刈るのだそうだが、ドッキングする地点まで少しずつ伸ばしていくそうだ。大鳥池小屋の番人さんに昨年お会いしたが、あんな大きな機械を持って草刈をする人には思えなかったので、やっぱり小屋番さんとは大変なことだなあと思った。

登るなら天狗さんと雑談しようと、週末をめがけて登ってくる登山者がたがいるようで、彼らはさまざまな差し入れを担いでくる。お米や野菜、漬物とか。どれも重いものばかりだ。お酒やビールなども。ブルーベリー氏も、大きなザックの中の半分は缶ビールだったとか。

そのブルーベリー氏が、野遊がへばったあの日、やはり水が不足してしまい、障子ヶ池の水を飲んだそうだから笑える。ビールをいっぱい担いでいながら池の水を飲んだとは。そのまま飲んだのだろうか、聞きたかった。

その日は、天狗さんを囲んで写真家さんと、今日登ってきたMさんと、野遊の4人で夕食会となった。といっても時間は16時ころで、なんだか早い。ビールやお酒で山の話が続いた。天狗さんが揚げ出し豆腐を持ってきて(きっと冷やしてあったのだろう)「こいつはうまいんだぞ」と言って、フライパンで焼いていた。ふうん、天狗さんは揚げ出し豆腐が好きなのか。

それから年金の話などをしていた。ふうん、天狗さんも人間だった。

二階に登山客が三名いたが、階下の雑談仲間は昨夜の半分以下の人数だった。でも今夜は3人の男性が意気投合しているような感じで、写真家さんもMさんも、天狗さんを囲んで仲よしだった。野遊もなんだか笑ってばかりいたような気がする。

天狗さん野遊を見て、からかい口調で「で、縦走するつもりだったとか?」とニヤニヤしながら言う。「わ、もう言わないでください」と野遊。