朝日連峰 障子ヶ岳 15 「天狗の庭」

もったいないほどいいお天気!
年に一度の梅雨明け十日、それも最近は地球が尋常でなくなってきて、うまく好天に合うかどうか難しくなってきているのだが、今回は大正解となったのだが・・・けれど未練はすでに絶った。

渓流釣り連はバカ平を下って帰途につくそうだ。下る人、登る人、みなさんそれぞれ出発して行った。滞在の写真家さんも機材を持ってどこかに行ってしまった。天狗さんは草刈機を持って自慢の石畳を登って行く。天狗さんは野遊に双眼鏡を貸してくださった。「遠くの山がよく見えるよ」と。

野遊は天狗さんと別れて、粟畑に行き、障子ヶ岳のほうに歩いて行った。水が流れている登山道をしばし行く。昨日の渇した野遊だったら、はいつくばってこの水を飲んだだろう。どんどん歩いて行くと、景色が徐々に角度を変えて開けてくる。ほどなく障子ヶ池を見おろす地点に来てしまった。

ここで思い切り双眼鏡を使った。障子ヶ岳の頂上に人がいるのがはっきり見えた。わぁすごい。大朝日岳も、小朝日岳も、すぐそこにあるような迫力で見える。威風堂々たる以東岳が圧巻だった。以東岳って、なんかコッテリしている。けっこういろんなおもちゃをつけているんだなと思った。

登山者とすれ違った。その人は早朝障子を目指して出発し、午前中に越えたのだ。そして天狗角力取山に立ってから、同じ道を戻るそうだ。林道に車を置いてあるからと。地元の人はそうやってこの一帯を、何度も登り降りしているのだった。それにしても早いなあ。

障子ヶ池から障子ヶ岳への登り道は、ゆるゆると草伝いにきれいについている。あんなところでへばりやがって・・・あんな優しいきれいな道でくたばりやがって・・・

障子ヶ岳を見あげると、どうしたことか突然、野遊は吐き気がした。ウッとなってしゃがみ込んでしまった。そうしたら急に、障子ヶ岳の雄姿が、気味の悪いものに見えてきた。今から登ろうかという気持がたちまち萎えた。もう見たくないよ〜恐ろしいど。帰ろ。

ばかばかばかばか障子のばか。この世で一番嫌いだ。

そう声に出しながら引き返した。登り降りの登りでふと目をあげると、先ほどすれ違った登山者のおじさんが妙な顔をして野遊を見てお昼のお弁当を食べていた。ばかばか言っていた野遊、あ、しまったと思った。

天狗角力取山で少し遊んでから、天狗の小屋に帰ったのが13時過ぎ。写真家さんも戻ってきて汗だく。「オバラコバラが〜」と何度も言っていたが、そうかその稜線は暑かったのか。野遊は小屋を箒で掃き、隅々まで雑巾がけをし、きれいに掃除した。