大黒屋光大夫を辿る旅 17 赤の広場

アロエフロート空港から空路モスクワへ。

お昼はチャイコフスキーというレストランで、おいしく思えないものを食べ、ちっとも優雅でない洗面所に並んでトイレを済ませ、アルバート通り、クレムリン外観観光、グム百貨店とかいうところでショッピングタイムを取ったりしたが、野遊はそんな時間帯は、ひたすら旅行記録の見直しに時間を費やして過ごした。

団長がショッピングモールで「アイスクリーム食べませんか」とか言い、立ち売りしている、いわゆる手に持つソフトクリームを勧めるので断った。立ち食いなんて。

団長は自分のを注文しながら「本当にいらないのですか」と聞き、しつこいねいらないから。ロシアンが街でソフトクリームを食べるからって、なにも合わせるこたないっしょ欲しくないのに。第一昼食時もビールとか飲んで飛行機でも飲んで、夕食はウォッカ飲む人がソフトクリームだなんてキモイ。

野遊は観光旅行ではないので、お土産を買うような気分でもないが、買う場合はカードにしようと思っていたので、現金(ルーブル)を待っていなかった。でも多少は、何かで要るだろうと思い、出発前に団長に、「現地でルーブルをくださいね」と言った。円をドルに返金してドルを現地でルーブルにするなどという手間をかけるのはイヤだったので。野遊は現金の扱いは並以下に苦手なのだ。ここまで苦手を通してきたのだからこのままいきたい。

確かに、こまかいルーブルは必要だった。今はロシアもチップとかがあり、有料トイレ(とは思えないようなみすぼらしいトイレ)には支払わねばならないし。

で、出発前、団長に個人的に会っていたホテルで、そのことを言い、円で、その分を渡そうとしたら、団長は「はいはいわかりましたよ、ではあとでルーブルをお渡しします、そのときに」と言っていた。

野遊は日本円で2,000円分も要らないほどのものだった。それなのに団長は、行きのバスで、スタッフ経由で100ドル(だったか?)を野遊に渡そうとした。ドルでなくルーブルでと、野遊は受け取らなかった。けれど団長がそれを野遊が受け取ったと思ったのだろうか。それとも忘れたのか、その後も野遊にルーブルを渡してくれなかった。ほんっと野遊は困ったのだ。

「ソフトクリームなんか要らないけど、ルーブルは〜ルーブルは〜」と野遊が言ったら、団長はまわりの参加者方の目を気にして、まるでなにか野遊が無体なことを言っているかのように振舞ったので、野遊はなんだか恥をかいたような気がする。

この団長は有能な御仁だとは思うが、どうも野遊は漠然とした不信感を払拭できないのだ。今日までの人との絆よりも、刹那的な世間体を取り繕うことのほうを、咄嗟に取ってしまう人なのだ。あとで陰でフォローすればナントカなるだろうとか思うタイプのようだ。でも野遊はそんなフォローはズルイと思う。