大黒屋光大夫を辿る旅 21 ゆるみ

町のあちこちをバスでまわり、名所的なところでは短時間下車してはガイドのアリスの話を聞いてまた乗車。その乗車の際、参加者のあるご婦人がタラップを踏み外したのか、怪我をしてしまった。

我々はバスに乗車してしばらく待った。バスは参加者の24人(今は団長とスタッフ2のサッちゃんの2名がいないが)と添乗員のkさん、ガイドのアリスだけで、自由席だ。野遊は窓際の後方座席にいたし、とっとと乗車していたので、何が起こったのかわからなかった。

やがてバスが発車して、アリスがマイクを手に
「ただ今悲しいことができましたが、また元気に出発します」と言う。

まわりの方々が何々、どうなった、こうなったとささやき合い、なんとなくわかった次第だ。本当だったらスタッフ1が、もっとはっきり我々に事の次第を伝えるべきだと思ったが。

どうやらこの、タラップを踏み外したご婦人は、頭を怪我されたとかで、病院に行ったらしい。添乗員のkさんが付き添ったらしい。

これでスタッフ1の責任はまた重くなっただろう。下車して見学し、乗車する。そのたびにスタッフ1は、ずいぶん気を遣っただろう。野遊は今になって思うのだが、野遊が前方座席に移動して、このスタッフ1を手伝えばよかったなと。乗車下車のときに先に降りて人数を確認したりの手伝いだけでもすればよかったなと。

ちゃんと知らせられていなかったこともあって、野遊はそこまで気づかなかったのだが、スタッフ1の、ちょっとイライラしている様子が、今も思い出され、なんとなく切ない気持になる。

しかしこれはあとになって知ったことだが、スタッフ1は、このこと以外のことにもイラつくことがあって、心労が多かったようだ。ま〜旅に出て4日目、そろそろ緩みが出てくるころか。

怪我をされたご婦人は、どこかの学校の元校長先生とかで、彼女のご夫君が、以前、佐佐木信綱記念館で仕事をされていた、野遊の恩師村田邦夫先生をご存知だそうだ。ご夫君にハチの話を聞かせてほしいと思う。ご婦人は「いいですよ、今度家に遊びにいらっしゃいな」と言ってくださった。野遊はこの言葉を思いながら、このように丁寧な優しいご婦人が、どうぞ無事ですようにと祈った。

仲良くなっていくほどに、ほんとうにみなさん、どなたもお行儀よくて優しい方ばかりの集団である。

さてこのご婦人、バラの学校の先生とタラソフ氏を迎えた夜の食事会に、頭に包帯をまいて参加された。何針か縫ったそうだ。でも病院から夕食会会場に、添乗員Kさんと共に現れたのだ。

それは、この旅の大事なポイントの一つである来賓を交えての晩餐だったので、気持をしゃんとさせて体を運んだに違いなく、生意気な表現ながら「みごとな女性」である。