恩師村田邦夫先生 9はるかなる連弾「河曲駅騒動」

お昼過ぎに河曲に着いた。ホームに入る車窓から、駅の外が見える。K氏の姿と、青い車が見えた。順調に到着!と、いそいそしながらドアーの前に立った。電車が止まる。降りようとしたら、ドアが閉まっている。えっ、手動なの!?手で開けようとしたができない。2車両の後部だったので、車掌室に行ったら車掌さんがいない!えっ、運転手さん一人なの!?

運転席に行ってドアを開けてもらおうと、前部車両に走って行った。そしたら最前方のドアだけが開いている。それっと走ったが、ドアは目の前で閉まってしまった!すぐそばに運転席がある。その窓をノックして、「降りますのでドアーをあけてください」と言ったが聞こえないのか、運転手さんは前を向いたまま。あ、ああー、電車が動き出す!野遊は運転席の窓をたたきながら「電車止めてください!」と言った(*_*;

電車は速度を増して、ああ〜もうだめだ。どどどーしよー!!頭が真っ白、Rさんと野遊は車内で大騒ぎした。車内はすいていたが、上客がみんなこちらを見ている。でもだれも何も言わない。さっき後部車両のドアの前で、わたしたちがどたばた騒いでいたときも、みんなこちらを見ていたが、だれも何も言ってくれなかった。地元の方なら知っているはずなのに。お国柄というものだろうか。

本当にどうしていいかわからず、一番近くの座席でこちらを穴のあくほど見つめていたご婦人に、野遊は「乗り越しちゃったのですが、どうしたらいいでしょうか」と聞いた。「次の駅で降りて反対電車に乗る」という内容のことをご婦人は言った。「反対電車はいつごろきますか、すぐに来ますか」と聞くと、「40分くらいしたら来る」という内容のことをご婦人は答えた。聞けば答えてくれるのだが、自分からは言わない。聞かれたことだけを答えてくれるのだった。ほかの人たちもじろじろを通り越してじっと見ていて無言だ。

とんでもないことになってしまった…綿密に時間を調べて、その通りに行動したというのに、土壇場で大失敗をしてしまった。K氏に連絡しなくては、と思ったら電話が鳴った。K氏からだった。も〜恥ずかしいけど、出た。

「Kさん、すみません、河曲駅で、電車のドアが開かなくて、ドタバタしていたら発車してしまい…」と言う声も泣き声になりそうに悲痛だ。野遊はK氏に、40分以上も遅れるので、河曲から歩いていきますと言おうとした。

そしたらK氏はこともなげに「次の加佐登駅で降りて待っていてください。迎えに行きます」と言うではないか。

あとでK氏から聞いたことだが、鈴鹿市内ならそれほど遠くないそうで、次の駅でも終点でも車でやがて行ける範囲なのだそうだ。野遊なんてなんだか横浜で降り遅れて川崎まで行ってしまうほど大げさな気がしていたのだ。

電車は間もなく次の駅に着き、Rさんと野遊はげっそりした感じで下車した。降りるときも乗客に「このドアは開きますか?」と確認している。

ここも小さな可愛い駅だ。ホームのトイレに変わりばんこに行って、あとは外に立って待っていた。K氏に申し訳なくてドキドキしている。

ほどなくK氏の車がきた。河曲駅の車窓から見た青い車だ。もうほんとにホッとした。いっぱい謝った。思えばK氏はこの地で生まれ育った方なのだ。道もよく知っていて、各停の一駅なんてすぐだったのだろう。

…助かった。