朝日連峰北方 22 中先峰の緑の虫

ryo-rya2012-10-26

狐穴小屋からしばらくは、きれいな道が続いていく。ミミ尾根からずっと眺めていた道で、なだらかな山肌の真ん中に広々とした登山道があり、刺繍糸で壁飾りに縫いあげたいような絵だ。

一昨年ここを下ったときは濃霧で何も見えなかった。いつ狐穴に着くのか見当もつかなかった。もういいころだけどなあと思っていたら、不意に小屋横に出たのだった。あのかわいい屋根が見えていたら、ずいぶん楽しく歩けただろう。

今日はいいお天気で周囲が見渡せるので、ふり返り、ふり返りして歩いた。そのたびに小屋は下に沈んでいき、後ろの角力尾根がせりあがっていく。その上にはっきり見えるのは、あの「すごい石」だ。まるで看板みたいに堂々と立っている。知らなかったら、いったいあれは何かと思うだろう。小屋のようにも見える。

野遊は岩や石が好きなのだろうか。庭石に興味はないのだけど。庭石は運ばれてきた個体で背景がない。やっぱりその山にある石だからいいのかな。角力尾根にある「すごい石」の名前は何というのですか。ないなら野遊が命名しちゃいますよ。「すごい石」。センスないなぁウチワだな。ああもう見えなくなる。どんなに遠くからでも見えるので、遠いからではなくて、野遊が山を越えるからだ。さようなら、すごい石。

またまた両側緑の草原地帯となって、この草々が、強風にめくるめくいっせいにたなびく情景を思い出す。「風の道が見える」と思ったことを。そして左手に丸い雪渓があって、雪煙が上空に吹きあがっていたっけ。今噴出した温泉みたいだったな。その雪渓を探しながら歩いたけれど、どこにも見当たらなかった。7月と9月の違いだ。あの光景はそうたやすく見られるものではなかったようだ。野遊は奇跡的に見てしまったのだろう。一生忘れない。

道は平坦なところも多くてトレイルランをしたくなってくる。そうだそうだここらで走ったと思い出す。ちょっと登って中先峰に到着。ここで休憩。足元に緑のきれいな虫が触角を動かしていた。全然逃げない。知り合いみたいにふるまっている。あんまりなつくので、ケータイのスイッチを入れてパチリ。行き過ぎてふり返っても、まだそこにいた。
(画像は、その緑の虫)

野遊が一昨年迷いかけた場所はこの先の、幅広いゆるい登り(今日は下り)の道だ。間遠に白岩が点在していて、足元は細かい砂礫で、ほとんど足跡のつかない道だった。ここがグレートアウト状態で、右に寄り過ぎて歩いてしまい、ヘンだな、どうもヘンだなと、いよいよヘンという所まで行ってから戻ったのだった。

今日、見通しの効く「その場所」に立って、こんなにわかりやすい道をどうしたら迷えるのかと思うほどだった。野遊が昨日狐穴小屋で出会った登山者(調査員)に「迷いやすい」と言ったのはここだったのだが、彼はどこを想像したのかな。なんだか恥ずかしく思った。けれどまた、ここを吹雪かれたならどうしようもないだろう。まことに天候とは、地獄と天国を分けるものだ。

さあ〜以東さんの登りですよ。・・・さて、そこからの登山道で、野遊は意外なものを見たのだ。