縁猫(9)こんなかわいいもの

安楽死を口にした野遊は、猫が苦しんでいるのを無理やり食べさせて延命させている自分が恐ろしかったし、猫に悪いことをしているような自責の念もあった。けれど、自分が大変すぎて「降りたい」気持ちも、正直言ってあった。

動物病院の医師は、野遊の疲れ果てた表情から目をそらし、そうっと猫の姿を見おろした。猫は診察台の上に転がっている。排泄はできているのだが、お腹が膨らんで、目は開いているものの、瞳は動かない。横向きに転がったまま、クッタリしている。鳴きもしない。

医者は静かに言った。「こんなかわいいもの、安楽死させることはできないでしょう」

彼はこれがかわいいものに見えるのだろうか。つぶらな瞳を動かして見つめてくるでもなく、黙って転がっている姿は猫というより握りこぶしくらいの俵みたいで。キュート感も何もない、ただのゴロっとした無様な小さいカタマリなのに。

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でも彼はこれをかわいいものと言った。
不思議にも、野遊は少し、うれしく感じた。
他人が、我が子をかわいいとほめてくれたような気分がしたのだ。
こんななのに、この子、かわいいって、先生は知ってくれてるんだ、わかっているのは自分だけかと思ったが、動かなくても、本当はかわいいってわかるんだ…

そう、かわいい。この子はかわいい。本当はとてもかわいいのだ。