野遊の将棋物語 3 キュンという愛称の由来(1)

それはどこで知った話だったのだろうか。

関西大学の学生さん方の記事だったと記憶している。

 

ある講義が終わったとき、教授が「今の講義のノートを提出するように」と言った。学生たちは慌てふためいた。出席して日数を稼ぐくらいしか考えていなかったので、ノートなど取っていない。黒板に、次から次へと書かれていた文字はすでにない。教授が去ってから、学生たちは困ってドタバタ騒ぎ、ふと見ると、隅に「頭のよさそうな」奴が座っていて、もしやと思い「君、ノートを取った?」と聞くと「うん」と返事。「み、見せてくれる?」と聞くと「いいよ」と、そいつは簡単にノートを前に差し出した。ノートには、きれいにびっしり文字が。わっと集まる学生たち。

 

そのしばらく後、彼らは、あの学友の名は豊島将之、プロの棋士だったと知った。その時、豊島君はもう退学していた。対局が混んできて、通学し続けられなかったのだ。